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短くセットされた黒髪は清潔感あふれていて、濃紺のストライプスーツが良く似合う今時の爽やかイケメン社長。端正で整った彫の深い顔に、きりっとした眉に切れ長の目。そのクールな印象とは裏腹に、彼の笑顔は温かさを湛えていた。まるで心の奥底から湧き出るような優しさが、彼の表情に宿っているように感じられる。詳しい年齢は聞いていなかったけれど、おそらく見た感じ三十歳を少し過ぎたくらいだと思う。
そして私、二十八歳になったばかりの長峰椿(ながみねつばき)は、そんな彼の会社に花を届ける仕事をしている。
「社長、申しわけありません。気が付かずに失礼いたしました」
「おや、怪我をされています。どれ、見せてください」
彼は私の指に滲んだ血の跡を見つけて指摘した。戸惑いながらも人差し指を見せると、少しお待ちください、と引き出しから絆創膏を取り出して貼ってくれた。
「はい、オッケーです」
人差し指と親指で〇のマークを作って優しく微笑んでくれる八神社長の優しさに触れ、先ほどから我慢していた涙がこぼれ落ちそうになった。しかし現在私は勤務中。そんな時に泣き出すなんて、仕事放棄に値する。
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