【第1話 - 背信者】

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  「このところ仕事が立て込んでいたので、少し疲れが出てしまったみたいです。ご心配をおかけして申しわけございません。でも、ご安心ください。今はアレンジの途中です。八神社長のお花は当店でいちばんいいものをお持ちしましたから、作業の続きをやりますね!」  なんとか誤魔化し、追加の花を挿しながら笑ってみせた。彼に心配をかけないように気をつけなきゃ。  雑念を払って目の前の作業に集中する。白い花を追加してボリュームを持たせたら見栄えが良くなった。  今、目の前で私の作業を真剣に見つめている八神社長の会社『Y2サイバーエージェンシー』と私の働く『フラワーショップ花小町(はなこまち)』は、週に二回、お花のサブスクリプション契約を取り交わしている。  お花のサブスクと聞いてもあまり馴染みがないだろう。簡単に説明すると、実家が花屋で両親が高齢のため、私は『フラワーショップ花小町』を引き継いで新しい事業展開を行い、オフィスを中心にそのスタイルにあった『お花のサブスクリプション』のサービスを始めたのだ。こちらのお任せでとびきりいい花を持って行き、オフィスの雰囲気に合う花で社の空間を彩るのだ。  早い話がこちらで選定した花を値段に応じてオフィスへ届ける――これが、お花のサブスクだ。新しいサービスだけれど結構需要がある。
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