【第1話 - 背信者】

7/25
前へ
/249ページ
次へ
 まずは一週間のお試し期間を設け、価格に応じてその会社に見合う花を提案しご満足いただけるように尽力する。大抵の会社は満足してくれて、継続でサブスクリプション契約に成功、予算や訪れる回数も会社の都合に合わせられるので、好評をいただいている。  先ほど親友の里枝と私の婚約者である瑛士が浮気している現場を目撃してしまったが、この会社は彼らふたりが勤めている会社だ。しかも瑛士がY2を私に紹介してくれたのに。  私が出入りするのをわかっているにも関わらず、オフィスで堂々と浮気するなんて……。しかも里枝と。 里枝も里枝だ。二人とも一体どういうつもりなんだろう。神経を疑う。  友達や恋人と思っていたのは、どうやら私の方だけだったらしい。 「椿さんがお疲れだというのなら、私が手伝いますよ?」 「滅相もありませんっ。これは私の仕事ですから!」  花を触った時に八神社長の美しい指に棘でも刺さったら大変!!  そんなことは絶対にさせられない! 「確かにおっしゃる通りですね。僕が椿さんの仕事を取るわけにはいきません」  八神社長は微笑みながらそう言った。優しく揺蕩うような笑みは美しく、社長としての余裕が感じられる。それに引き換え私はいつも店のことや仕入れのこと、次の現場のことを考えているので頭は仕事で手一杯。だからまったく余裕がない。
/249ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6413人が本棚に入れています
本棚に追加