【第4話 - 執着者】

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  「向日葵の笑顔の女の子――彼女が僕の初恋の人です。まあ、小さい時の話ですから相手の方は僕のことなんか覚えていないと思いますが、あの日、小さな女神にとても救われました。結局その日は八神家の者に見つかって墓参りにも行けずに連れ帰られてしまいました。監視の目が厳しくなってしまったので、仕方なくもらった花は自室に飾りました。そうすると暗く沈んでいた八神家に明かりが灯った気がしたのです。心がとても明るくなりました。それから僕は花が好きになったのです。だから常に花を飾る習慣がつきました」 「そうだったのですね」  有名企業の社長ともなればそれは辛く苦しい道を歩まされたことだろう。彼の生い立ちは想像以上に非情なものだった。 「向日葵の子にもう一度会いたくて公園に何度も足を運びましたが、結局会うことは叶いませんでした。移動販売でたまたま訪れていただけですし、どんな花屋の方がそこに来ていたかもわかりませんでした。僕は花が枯れるまで毎日、氷水を取り替えました。その中の一本はドライフラワーにして手元に置き、そのうちのきれいな一輪は押し花のしおりにして持ち歩いています。あの日から僕のお守りになりました」  悠斗さんらしいエピソードに思わず微笑んだ。 「彼女との忘れられない出会いが、僕を今日まで支えてくれました。あの日、僕は彼女に助けられました。彼女が僕を心配してお花を渡してくれなかったら、きっと僕は死んでいたでしょう。辛く苦しいあの家に潰されていたと思います」 「そんな……!!」  
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