【第4話 - 執着者】

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   ※  週末も何事もなく日が過ぎた。翌週月曜日。もう七月に入ったけれど梅雨は明けず、その日は朝から雨だった。特に売り上げが悪い花小町を早々に閉め、途中でスーパーに寄って買い物をした後、電車に乗って雨の中を足早に自宅マンションへと向かう。  雨音が激しい音を立てて路面に打ち付ける中、傘を差しながら家路への道を急いだ。今日は悠斗さんとの約束の日。仕事終わりに迎えに来てくれるから、綺麗にして待っていよう。さっきスーパーで買ったのはカレーの材料だ。作っておいて、悠斗さんの家に持って行ったら喜んでくれるかな?  それにしても甘口カレーが好きなんて、可愛い子供みたい。悠斗さんを思い出すと、思わずくすっと笑みが漏れる。  マンションの入口に近づくにつれて、なんとなく不穏な気配を感じた気がした。周りを見渡しても雨が激しく振っているだけで特に変わった様子は見当たらなかった。 (気のせいよね……)  瑛士のことで参っているから神経質になっているだけだ。マンションに着きました。また部屋に着いたら連絡します、と悠斗さんにメッセージを送っておいた。  分厚く黒い雨雲のせいで夜の街も一層陰鬱に感じる。建物内でも同じ印象だった。エレベーターを待って中に入る。なんとなくそわそわしてしまう。早く部屋に入って悠斗さんを待ちたいな。  三階に到着してエレベーターの扉がゆっくりと開く。音を立てながら開く扉の向こうには――瑛士が獰猛な眼差しで立っていてその視線が私に向いた。
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