公爵令嬢の縁談

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 私の名前はジュニパー・リンデン  リンデン公爵家のひとり娘。  ひらひらと花から花へ舞う蝶を眺めながら「うふふ」と笑う目の前の美しい女性は、私の母ローズ。  ふんわりとしたロゼット咲きの、ピンクのバラがよく似合う『永遠の少女』といった雰囲気のとても可愛らしい人だ。   「今日は本当にいいお天気ねえ」  「そうですわね、お母様」  そんなお母様と瓜二つといわれている私はもうすぐ十六歳。本来ならこの春、貴族の通う王立学園に入学しているはずなのに、こうして庭のガゼボで優雅にお茶をしているのには理由がある。 「うわああああぁ」 「マーシュ様!お待ち下さいぃ!」  ふたつ年上のお兄様が、大声で叫びながら私たちのいるガゼボに向かって走ってくる。そんなお兄様の後方を、法務局の補佐官様が全力で追っくるのが見える。 「まあまあマーシュ、大きな声で驚かせないで」 「母上!僕はもう嫌なんです」  お母様に縋るようにその場で膝をつくお兄様。 「お兄様…大丈夫ですか?」 「ジュニー聞いてくれ、このままでは僕も父上のようになってしまうよ!」  お兄様に追いついた補佐官様が、ガゼボの前で立ち止まった。彼はお母様の姿を認めると、とてもわかりやすくポッと頬を染めた。 「これは奥様、お騒がせして申し訳ありません!」  直立から最敬礼でつむじを見せた補佐官様の姿に、つい笑い声をあげてしまうお母様。 「うふふ、いいのですよ。毎日ご苦労様です。せっかく来ていただいて悪いのだけど、今日は息子も疲れているようなの。お仕事の続きはまた明日ということでお願いできないかしら?」 「はいっ!また明日お伺いいたします!」  私とお母様が揃ってニッコリと微笑みを返すと、彼は照れながら一礼してそのまま去って行った。
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