月夜の遭遇

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 恋人に振られてしまった私は、欄干にもたれかかって、水面(みなも)に映る月を見ていた。望月は、ゆらゆらと揺れ、歪んでいる。 「月が綺麗ですね」  突然、近くからそんな声が聞こえてきた。 「手が届かないから綺麗なのよ」  返事は、NOだったらしい。ヒールの音が遠ざかっていく。  顔を上げると、振られたらしい男が、私と同じように欄干に肘を乗せる。  男は、私が見ていることに気付いたようだ。恥ずかしそうに、水面へと視線を落とす。 「ああ……月は、こんなにも歪んでいたのですね」 「……ええ」  少しだけ考えて、視線を水面に落としたまま、私は告げる。 「けれど、あの月になら、手が届きそうですね」  男がこちらを見た気配がする。けれど私は意に介さず、ただ揺れる月を見ていた。  水面に映る満月は、滑稽なくらいに歪んでいて、けれどひどく美しかった。
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