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「てぶくろをかいに」
4歳の妹が最近好きな絵本。
妹はお母さんの前、僕の隣で音読を始めた。
「おしまいーっ。」
お母さんが僕の隣で音読の終わった妹に拍手を送る。
「雫ちゃんは、読み聞かせが上手だねー。」
僕は音読が苦手だ。
というか、本が読めない。
もっといえば、字が読めない。
なんか、ふにゃふにゃの形にしか見えないんだ。
「お兄ちゃん、お話しわかった?」
得意気にそう言ってくるのが鼻につく。
「創くんだって、この絵本好きだもんね?」
お母さんにそう言われたら頷くしかない。
子どもの黄色い狐が町場に手袋を買いに行くお話は、何回も何回もお母さんが聞かせてくれた。葉っぱをお金にしてお母さんの狐が持たせてくれたから、それで優しい人間のおじさんから手袋を買ってくるのだ。
僕は大冒険だなってそう思ってワクワクして聴いていた。綺麗な絵も大好きだし。その絵本には魅力を感じていた。
でも、それはお母さんが読み聞かせてくれたから。
妹が字を読めたりかけたりすることをやたらと自慢してくるのに腹が立つ。
「お話は知ってる!嫌い嫌い!大っ嫌い!!」
小学2年の僕は、障害児クラスの問題児。
2年1組の端っこで、読めない文字にイライラしながら後ろの席でじっと黒板を睨みつけている。勉強はわかる。算数も生活も国語も理解できる。でも、読めなくて書けなくて。
先生は僕が怖いんだって。虐めてないのにいつも困った顔で僕を見て「創くん、わかったかな?」って、声を震わせている。だから、ついつい睨みつけてしまう。
「創くん、この絵本、嫌いだって。」
妹が涙声でお母さんにそう言って、ついには泣き出すから僕はイライラが止まらなくなってくる。
僕も狐なら良かったんだ。
狐なら文字なんて読めなくたって書けなくたって関係ない。
妹は、文字が読めて書けるようになった。
でも、僕は文字が読めない書けない。
でも、妹は、文字が読めても書けてもお話を理解できない。
僕は、文字が読めなくても書けなくてもお話は理解できる。
お話ししてもらえたら、耳に聞こえる言葉なら僕にはわかるんだ。
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