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「しかし、驚いたなぁ」
「ねー、まさかこんなところで会うなんてね」
「いや……そうじゃなくて」
「?」
小学生ぶりに会うミズキはとても美しくなっていた。
それは、縦に3つ並んだホクロがなければ到底気づき得なかったほどの変化であり、まるで別人に化けたかのような変わりようであった。
こちらの様子を【チラチラ】と見てくる、他の乗客と視線が合う。
あまり見んじゃねーよ、見世物じゃねえぞ。心の内で悪態をつく。
気持ちはわかるが、あまりに露骨すぎる。しかしながら、自分が彼らの立場だったら同じようにしていたに違いない。
なぜなら──。
「マサキって今何してるの?」
「えっ? 俺か? 俺は普通に大学生やってるけど」
「へー、凄いじゃん! そういえばマサキって昔から頭良かったもんね」
「いやいや、そんなことないけど……」
ミズキの表情に陰りはなく、こちらが委縮してしまうほどウソがなかった。
本来ならば、僕も同じようにミズキの近況を尋ねるべきだったのだろう。「ミズキは何してるの?」とか「ミズキは大学行ってないの?」など聞けることはたくさんあった。
しかし、しなかった。
──できなかった。
ミズキをミズキだと認識した瞬間、僕の中である種の気遣い(それは配慮ではなく遠慮と呼ぶに相応しい)が生じ、どこまで踏み込んで良いのか、また、どこまでそうすべきでないのかがわからなくなってしまったのである。
小学生の頃には何となく受け入れられていたミズキの個性が、数年の時を経た今、圧倒的な現実となって僕の前に立ちはだかっていた。
「そういえば、この前さあ」
僕の戸惑いを一顧だにせず、ミズキが続ける。
「へっ、へえー、そうなんだ」
「そうそう、それでね!」
会話と呼ぶには抵抗を感じてしまうほど恐ろしく一方的な勢いで、ミズキは楽しそうに話しを続けていた。
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