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トコダトコさん ④冒頭その3
トコダトコさんDM対談、今回はその6回目です。
🎸「三つめはこれ。
☆
――恋とは、知性に対する想像力の勝利である。
ヘンリー・L・メンケン(1880~1956)
☆
偉人の名言を冒頭に引用して、そのお話の主題を語らせるっていう手法、すごくゾクゾクしますw」
🛶「名言を流用するという手法は知性を必要としますよね。誰でも知っているような手垢のついた言葉では相手を惹きつけられませんから。私は知性に自信がないので、架空の名言を作ったりはします←」
🎸「実はこれ、遠山彼方さんの「僕の恋心に関する一考察」の冒頭です。まあ爆笑コメディ作品なんですけど、主人公の理屈っぽいところとか妄想の渦に惑わされてる部分とか、この冒頭で絶妙に「代弁」して見せていて、さすがだなあと思いました」
🛶「遠山彼方さんの「僕の恋心に関する一考察」! そうでしたか。流石は流石ですね! もう作者名とその冒頭だけでグイっと持っていかれそうです。「いや、それ絶対に面白いヤツだろ」って。最近のやたら長いタイトルのラノベは、それで中身を紹介するためなんですが、その一文で「この本の軸」が何なのか一撃で想像できるのが凄いです!」
🎸「次はこちら。
☆
青い空、わたあめ雲、セミの声
__ああ、夏だ。
なかよし公園、小さな滑り台、黄色いベンチ。
__君の好きな、赤いブランコ。
『パパ』
__なんだい?
『パパのこと、ちょっとだけ大好き!』
__パパは君が大好きだよ。
『ナツね。、背がいっぱい伸びたら、パパのこと、いっぱい大好きになるんだ!』
__そうか。それはとても楽しみだな。
夏の日の休日、
娘とよく公園で遊んだ。
__ああ、そうか。
__夢か。
☆
んー、好きだなあこれ。雪乃かぜさんの「この声でキミが唄え」という小説です」
🛶「この作品、ナツイチか何かに応募されていた作品だと思うんです。で、あのタイトルとあの絵と冒頭を読んで「ああ、今年の大賞はもう決まったな」と思った記憶があります。何ていうんですかね、同じときに私も応募していたんですか、とてもこれに勝てる気がしませんでした」
🎸「親子のノスタルジー。父親目線のモノローグとも言える独白回想ってやつですが、これが本編前に切なさとお話の方向性を表現しまくりだなー、と」
🛶「情景描写もいいですよね。青い空と黄色いベンチに赤いブランコで色の対比をさせてカラフルさを演出させるという。そしてさり気なく「セミの声」を入れることで聴覚へも訴える。すると色と音とで読者があたかもその場にいるような錯覚を覚えるんですよ。これは私がエブリスタで選評を貰ったときに言われた「五感の複数に訴えろ」に通じるものがあります」
🎸「絶対感動させるやつだから、最後まで読みたい!ってなりましたね」
🛶「次の作品は何でしょうか?」
🎸「次はこれです。
☆
「名前を奪われた」
☆
お話の冒頭の登場人物のセリフから始まります。
澤檸檬さんの「毒林檎もどきオオトカゲ」という小説です。ミステリやサスペンス作品は「えっ?」から始まると読みの体勢が謎解きモードに切り替わりますw」
🛶「凄いですね。ミステリの世界では「まず、死体を転がせ」と言われます。そいつが何者で、どうして殺されてトリックがどうだなんて、そんなものは後からどうにでもなるんだからと。でもそれができない。どうしても最初に前提を説明してしまう」
🎸「名前を奪われるなんていう普通じゃないひとことから始まっていて、「どゆこと?」からグイっと惹き込まれていきました。素晴らしいです」
🛶「次は何を行きましょうか?」
🎸「次はこちら。 安積みかんさんの「圧倒的正しさの前では泣けないです。
☆
私は泣かなければならない。
悲しいときも、悲しくないときも。
悔しいときも、悔しくないときも。
嬉しいときも、嬉しくないときも。
寂しいときも、寂しくないときも。
虚しいときも、虚しくないときも。
それが私の存在意義だから。
泣かなければ、私の存在価値がなくなってしまうから。
☆
メイン登場人物(?)の意義・ポリシーのような物のこの語りから始まる小説なんですが、もうこの時点でこれを語っている人物(?)の普通じゃない感を滲ませていて、この書き出しには唸ってしまいました」
🛶「これは奇跡の5秒前で拝聴いたしました。「私は泣かなければならない」という冒頭は見事の他ないですね。自分の存在価値を何処に見出すのか、そこに絶対的な回答はないんです。他人から見たら『あいつ何を馬鹿なことしてんだ?』と理解できないようなことに寄り縋ることがある。人間の弱さと本質を突く冒頭だと思います」
さて、次回はトコさんと私の双方ともに大絶賛となった池田春哉さんの名作『輸涙』についてアツく語りたいと思います。
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