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トコダトコさん ⑤描写
トコダトコさんDM対談、今回はその8回目『描写』についてです。
🎸「個人的に羽鳥湊さんの描写が好きです。情景描写、人物描写ともにレベルの高い描き方をされる書き手さんですが、いちばん凄いのは心情描写です。
心の動き、いや、動いてない状況でもそれを過不足なく切なく描かれます。凄い技術だと、思います。まあ普通に凄い作品を取り上げるのではなく、異質とも言える描写に溢れる一作があるのですが、「貴方の声」という作品でお話したいと思います」
🛶「『貴方の声』拝読して参りました。あれは確かに凄いですね。主人公は人生の恐らくほぼ全てを愛していた夫に掛けていた。そのため、その「ほぼ全て」を失ったが故に「何も無くなってしまった」と。これは「自分は何のために生きているのか」という命題に向き合っているのだと思います」
🎸「この小説での描写、主人公の心情を表す為に敢えて淡々と事象の経過を語って描写されています。読み流してしまいそうになりますが、これ、凄いです。比喩を殆ど使っていないのに、主人公の心情の深いところにどんどん潜っていくように読み進んでしまうんです」
🛶「掃除機を掛けるシーンが印象的で。「特に汚れてもいないが掃除機をかける」というのは、手段が目的化してしまっているんですね。そうして細かなことでもいいから「自分がそこにいる必要性」を作り出そうとしているという。読めば読むほどに主人公の心の奥が見えてくるという見事な表現だと思います」
🎸「ひとり語りの作品で私よく「読み飽き」を感じてしまうのですが、まったくそれを感じず一気読みでした。技術のある方の考えられた「敢えての描写なのだ」と後から気付きました。比喩や文体で魅せる描写ではない凄味を、強烈に感じた作品でしたね」
🛶「どうしてもね、書き手は「ええ格好しい」がしたいんですよ。すんごい描写で読者に「どや」したいんですよ(笑 でもそれをせず、淡々と事実だけを描くことで主人公の乾いた心と世界観の調和をとることに成功しているのだと思います。お題の「夕立」を、「いつ感情が爆発して泣きだすか分からない」の比喩として実に上手く昇華させていますよね。こういうお題の使い方は中々できるものではありません」
🎸「あと、最近ハマりかけてるんですが、鷹尾だらりさんの描写がとても美しいな、と思っています。筆圧も爽やかでさり気ない描写をされますが、お話にダイナミックさ感じる時があります。比喩は多めで綺麗、鮮やかさで魅せる文章ではありますが、「どや感」は無くやはり何処かさり気ない描き方だな、という印象です。最近読んだ「未来を殺した、あの子の行方。」という作品では、天気・天候を描いた描写があるのですが、読者に世界観を掴ませるささやかな狙いと、文章のアクセントの効果その両方を生むさり気なさで、「タイムリープ」物という強めの題材の奥行きを表現されています」
🛶「「未来を殺した、あの子の行方」。これも拝読して参りました。このワードセンスの素晴らしさはたまらないですね。決して難しい単語を使っていないのに、誰にも真似ができない表現をして、読者に共感を与えるというスゴ技だと思います」
🎸「読んでて唸ってしまうような感激がある描写の数々でした」
🛶「『熱が浸透してくるようでした』とか『真夏を開封したような』とか、唸りますね。この「ああ、生きているんだな」という実感が。物語の一部だけでなく、全体を通してこの世界観を貫くには相当な頭の柔らかさと感性が必要だと思います。こういう境地には、多分一生かけても辿り着けないとは思いますが、自身の作品の幅が如何に狭いかを思い知らせてくれる素晴らしいお手本です」
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