湯気の向うに冬

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「ほら、卵を落としてやったぞ?」  湯気の向うにぽっかり浮かぶ卵は、白身は火が通り黄身は生のまま。 「これ……よく二人で作って食べたよね」 「あぁ、満月ラーメンな」  そうだった……。卵を落としただけのインスタントラーメンだったけど、その卵が重要で、黄身をきれいなまま仕上げる事にこだわっていたんだ。  白身は白く薄い雲、黄身は淡いお月さまのように。 「懐かしいな……満月ラーメン」 「俺なんかしょっちゅう食べてるぞ!だけどさ、昔みたいに美味しくない……なんか違うんだよな」  言いながら智樹のお腹がグウッと鳴った。 「あ……れ?智樹のは?」 「あー、これがラスト。最近忙しくて、買い出し行けてない……」  じゃあ昔みたいにはんぶんこしようか?  今でもしてくれるのかな、幼なじみの特権とやらで。 「はんぶんこな。ルナはすぐに腹壊すしな!」 「もう壊さないよ、相変わらずデリカシーがないよね智樹は」  小さな丼に頭を寄せて、二人でラーメンを啜る夜。私も智樹も、黄身を潰さないように食べている。 「旨いな、ルナ!」  湯気の向うに浮かぶ満月が、潰れてとけて麺に絡む。  しょっぱい涙が優しい塩味に変わった夜。  また好きになってしまうんだろうな、きっと。 【丼の中に浮かんだ満月に     黄身()が好きだとつぶやく夜は】                 完
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