不幸ヤンキー、"狼"に魅了される。【1】

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不幸ヤンキー、"狼"に魅了される。【1】

 哉太の母校であるオープンキャンパスへとやってきた哉太と幸…それとフライとスピードも居た。 「いや、なんでもやしとスピードいんの!?」 「うるさいなぁ~…」 「俺と花ちゃんのデートの予定だったのに…」  文句を言う哉太にフライは怪訝な表情を見せて内心で舌打ちを打つ。スピードは哉太とフライに少し怯えている様子ではあるが、哉太などに負けずにフライは言い放つのだ。 「別に良いじゃないですか。…僕やスピード君もここの大学目指してますし? …それに、さっちゃん誘ってくれたもんね~!」 「…えっ?」 「ねぇ~さっちゃん???」 「あ……そうだったな~」  フライの視線の先には悪気の無い顔をした幸が数秒時間を経ってから頷いた。どうやら人の多さに驚いたらしい。  そんな彼に哉太は幸に抱きついてはまた文句を言い放つ。 「嘘だな。どうせ、花ちゃんからこの学校のオープンキャンパスの話を聞いて来たんだろ。…この小姑のチビもやし!」  だがフライは余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)で…。 「うるさいですよ。それに、秋なのに脇腹曝け出している変態さんに言われたくないですね…あっ、ごめんなさい~。場磁石さんのアイデンティティでしたよね~。すみません~。その格好だけ見たらただの変態の脳筋かと」  大人げない哉太のこめかみに血管が走った。 「おいクソもやし、ちょっと自分が可愛いからって許されると思うなよ?」 「別にそんなことなんて思ってもいませんし?」 「はっ。お前なんかより花ちゃんの方がとんでもないくらい可愛いし―」  哉太とフライが言い争っている中で、幸は気にせずにあたふたとしているスピードに話し掛ける。幸にとっては見慣れた光景なのだろう。 「お前まだ高1だろ? オープンキャンパスとか早くねぇか?」 「あ…まぁ、興味があったというか…」  しっかりしている様子のスピードに幸ではあるがやはり気になるのは…普段から彼が来ているチャイナ服であった。  だから彼は聞いてみることにした。 「というか、どこの学校行ってんだよ。…チャイナ服の制服なんてまた変わった学校だな」  デザイン違いのチャイナ服を着ているスピードに幸が問い掛ければ、彼は幸の勘違いを解消させる言葉を掛けた。 「あっ…、うちの高校は制服が自由なんですよ!」 「へぇ~。変わった学校だな…」 「よく言われます。…でも―」  意外な事実に驚く幸ではあるが今度はスピードは付け足したように話し出す。 「―俺は、その、あんまり学校に行けてなかったんですけどね」 「…なんか事情でもあったのか?」  するとスピードは少し悔い改めるような表情を見せた。 「その…。言い訳なんですけど、ホヅミに”狼”にされてから交戦的になって学校へ行くのとかサボってて…」 「あ…そういうこともあったな…」  そして遠くの目をしてからスピードは自身に向けて問い掛けるように話す。 「あの時はずっと頭が"狼"のことでいっぱいだったから…ですかね」 「……」  少し悲しげな顔をするスピードに、幸はどう声を掛ければ良いのか分からないでいる。しかしスピードは今度は明るい調子になって笑うのだ。 「でも、今は少し大丈夫になりました。のおかげで…なんとか」 「春夏冬…って妹さんのことか? …なんでまた―」  真相を突き止めようとすれば、哉太とフライの口喧嘩が周囲を巻き込ませて2人が能力を発動させようとしていた。 「このクソもやし…。てめぇをまずは殺してやるよ?」 「こっちこそですよ…? 早くさっちゃんと別れてどっか適当な女のとこへ行けよくそジジイ」  哉太が手を広げ、そしてフライは呪文を唱えようとしていたので、幸はスピードの真相を諦めて2人をド突いたのであった。  ―――ボカッッ!!! 「ぐえっ…!」 「痛ったぁ……」  脇腹を抑える哉太と頭を抑えるフライを尻目に、幸とスピードは露店やら出し物やらを見に行くのだ。  ―負傷している2人を無理やり連れて。 「おお~なんかすげぇや。…哉太さん、すごいな…オープンキャンパスって!」 「すご…いの前に、花ちゃんの怪力パンチの方が凄いんだけど。…めちゃくちゃ痛いんだけど…?」 「フライ相手に子供になるからだ。ちゃんと大人になれ」 「ちぇっ…」  軽い説教を受けられる哉太は少々ふて腐れた顔をしているが気持ちを切り替えた。 「まっ、フライ君も怒られたから良しとしますか~」  痛む脇腹を抑える哉太に今度は頭を抑えるフライが苦言する。 「こっちもですよ…。別にさっちゃんのゴリラパンチなんて、こっちはご褒美みたいなもんだし?」  頭を殴られたからか回路がおかしくなって変態チックな言葉を言うフライに、スピードが彼の頭を撫でる。  各々(おのおの)の反応を示す中、幸はどこか視線を感じた。  突き刺さるような視線を先には…以前見掛けたまだらの髪色を左右に高く結い上げた少女がそこに居たのである。しかも眼鏡の男性も隣に居る。  ―2人は何かを話してから頭を抑えているフライと慰めているスピードに近寄って話しかけて来た。 「あの~、今、お話ししてもよろしいでしょうか?」 「あ…はい。なんでしょうか?」  どこか企みを見せるような男…心司の微笑みに気づかずにいるフライにスピードが代わりに応じる。すると突然、ツインテールの少女…心が頭を抑えているフライに向けて言い放つのだ。 「あなたは罪に犯されています。…私はあなたを救いたいのです」 「はい?」 「ぷっ。おかしい~」  (とぼ)けた返事をするフライに哉太はほくそ笑むが、気にせずに心はフライに手を差し出して言い放つのだ。 「あなたの苦しみを私は救いたいのです。…久遠 勇翔さん」 「…なんで、僕の名前を知って…?」  すると彼女は決まって言い放った。 「神から啓示を受けたのです。…私と同じ”狼”の人。」  驚くフライではあるが、スピードは心の右頬にある大きな”狼”の入れ墨から彼女が噂の囲戸 心であることを確認した。そしてはしゃぐのである。 「フライ先輩、この子…心ちゃんですよ!? 過去が見えるって噂の」  驚くフライではあったが信じられないといった様子に心は一礼をしてから言い放つ。 「あなたがもしも救われたいと願うのなら…また会えるでしょう。いえ、会えますから」  すると代わりに心司がフライに何かを手渡した。 「こちらを受け取って下さい。…それではまた」  そして2人は去ってしまった。  …なんなんだ。あの子は…。  幸は未だに思う。…心がまるで人形のように見えるという事実を。
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