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不幸ヤンキー”狼”を究明する。【終】
「”キー”はね、俺と同じで”一匹狼”に近い存在なんだけど…これがまた嫌な奴でね~。俺や…特に躑躅にかな? 嫌がらせはされるわ、意味が分かんないことをするわで、俺はすんごい嫌いだから苗字さえも覚えてないの」
クッキーを食べ終えてからコーヒーを啜る哉太。そしてまた何かを思い出すように追記した。
「でもあの時は俺が10歳くらいで”キー”は5歳くらいだったんだよね~」
「…あの、その人、当時は5歳から嫌な奴だったんですか? …逆に凄いんじゃ」
「でもすんごい嫌な奴だよ? …その当時の頭脳が”狼”の中で1番だったんじゃないか、ってもてはやされてたから」
「へ…へぇ~…」
「…あー、思い出すだけでムカつく!!!」
珍しくフライに答える哉太ではあるが、そんな彼に今度は幸が疑問を投げ掛けた。
「でも、なんでそんな奴を探してんだよ。…なんかしでかそうだから、とか?」
幸の問い掛けに今度は麗永が答えた。
「というのを、場磁石君が言っているんです。その”キー”という人間は”樹”の能力者で自在に操れる能力を持っています。その能力を使って何かをしでかすのではないか…と場磁石君が心配らしくて」
「あいつ、嫌な事ばっかりするからさ~。どうせ厨二病的な発想でもしそうだから、そしたら面倒だな~って思っているだけ。…でもね~。あいつ、男か女か分かんない中性的な格好してたから何となく女かなって思って女として探してんだけど…。あ~!!! もうムカつく」
哉太が怒りのあまり残りのコーヒーを飲めば幸は再考して話していく。
「じゃあますますジュジュちゃんはあり得ないんじゃ…。あんな天使か菩薩か神みたいな、もう聖女って感じの子が哉太さんの言う嫌な奴には俺は思えない」
―さすが、失恋したがジュジュ信者な幸である。
そんな彼に今度はフライも意見を述べる。
「…さっちゃんの過大評価は置いといて。…でも確かに、ジュジュさんがそんなひどい子には見えないですけど?」
「皆さん、どうかされたんですか、難しい顔して?」
幸とフライの見解に皆が頭を悩ませれば、制服を着たジュジュが不思議そうな表情をして現れた。
「ジュジュちゃん!??」
「ジュジュさんっ?」
彼女は相変わらず長いソックスを履いていてスカートも長めなので脚に入れ墨があるかは分からない。驚いている様子の幸とフライにジュジュは不思議そう顔をしつつもフライの横に座っているスピードに声を掛けたのだ。
「あと、そこの…、女の子…にしては背も大きいような…? 初めまして。桐峯 ジュジュです」
「えっと…、速度 あやめです。あと…一応、男です」
「あっ、そうなんですね! ごめんなさい…。失礼なことを…」
「い…いえいえ!!」
ジュジュがスピードの存在に気づき自己紹介をすれば、スピードも同じようにした。
―そんな2人を背にして哉太は皆に問い掛けた。
「とりあえず麗永はあのジュジュちゃんって子と一緒に回るとして。…みんなもさ、せっかくの文化祭だから回りたいっしょ?」
哉太の言葉に皆は賛同すれば彼はこのような提案をするのだ。
「…だから時間ごとに麗永とジュジュちゃんを、俺と花ちゃん。そんでもやしとスピードと春夏冬さんで見張るとかどうよ?」
「なんでちゃっかり場磁石さんがさっちゃんと一緒なのかを聞いても良いですか?」
訝しげな瞳で見つめるフライに哉太は自信満々に答えた。
「そりゃあ付き合ってるし~。そこの親友程度の奴じゃなくて~?」
「……ムカつくな。この人」
軽く舌打ちをするフライに哉太は言葉を続けた。
「あと能力者もバラけた方が守る時に良いかな~って。”キー”があの子だったら何かをしでかす可能性は高いから。なにかご不満でも~。…恐らく”キー”の能力に負けた白髪もやし君?」
「…うざっ」
再び陰で舌打ちをフライではあったが哉太の意見に皆は同意した。するとスピードと話を終えたジュジュが麗永に声を掛ける。
「それじゃあ行きましょっか。私、露店とか回りたいです」
「いいですよ、行きましょうか。…それでは皆さん、失礼します」
「はいはい~」
ジュジュと麗永を見送ってから哉太は、スピードに状況を説明しているフライに命令する。
「そんじゃあ、あとはよろしく~! 俺と幸はあとで尾行するから」
「はぁ? なんで僕たちが―」
「…スピードはそれでもいいよな?」
「え…いや…は、はい!!」
怖い笑みを見せてから哉太がスピードに尋ねれば彼は真っ青な顔をして返事をしてからそそくさと麗永とジュジュの2人の後を追った。
「まったく…もう…」
フライは呆れつつもその後ろを追う。
―しかし最後に残ったうららは哉太に笑い掛けるのだ。
「さっきの彼岸花君と付き合ってる発言は聞き逃してないですからね。…今度教えて下さい!」
「う~ん。それは困るかも~。…可愛い幸を知っていいのは俺だけだから」
幸がコーヒーを吹き出しそうになった。
「あは。…じゃあ行ってきますね? 待って~、フライく~ん」
フライを呼びながら追いかけていくうららに手を振る哉太に、幸は咳き込んでから大きく息を吸った。そして調子を整えてから、うららを見つめるのだ。
「…というか妹さん、そういうの好きだったんだな。始めて知った…」
幸の発言に哉太はスマホを弄りながら呟く。
「腐女子なんて居るもんだよ~それぐらい」
「フジョシ???」
「あー…。花ちゃんは知らなくていいから」
そんな哉太はスマホに連絡をしてから電話を掛ける。…相手は絶賛、田中 皐月(躑躅)のサイン会を任されている撫子にであった。
「もしもし~? この前言った”キー”がこの学校に居るかもしれないから、一応、用心はしておいて~。警備とかなんか理由付けて守った方が良いかも。じゃっ!」
―――ピッ…。
素早く電話を切る哉太に幸は戸惑いやら呆れを見せてしまう。
…まったくこの人って人は。
だがしかし。今度は哉太が突然、痛がる素振りを見せたのだ。心配になった幸は哉太に尋ねる。
「どうかしたか?」
「痛ったぁ…。ちょっと具合が…」
「…当たっちゃったかな…? コーヒーかクッキーかな…」
「いててて…。花ちゃ~ん、保健室案内してくんない?」
「うん。分かったからここ抜けて―」
「なんか痛い~」
「痛いのは分かったから、そんなに喋んなよ。連れてくからさ」
「…ありがと」
幸に手を引かれた哉太は、腹を抑えながらも隠れて笑みを零していた。
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