不幸ヤンキー、”狼”が現れる。【2】

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不幸ヤンキー、”狼”が現れる。【2】

 ―――ドタッッッッ…ゴオッンッ!!!  突然の轟音に幸はかなり驚いた。…哉太は素知らぬ顔をしていたのだが…。 「……なんだ!?? 今の音」 「そんなことよりもさっさとエッチしよ~よ?」 「さっきの音の方が気になるわ!!!」  幸の声掛けにより先ほどの甘ったるい情事は一時中断となった。哉太がふて腐れるが気にも留めずに急いで服を着てカーテンを開けてみれば…なんということか。保健医が地面に倒れていたのだ。 「な…なにが、どうなって…。とりあえずセンセーを―」  ―――…ピッタリ。  具合を見てみようかと身体を持ち上げようとするが地面と密着して動かない。さすがに理由が分かってしまった幸に哉太が口笛を吹く真似をするが…彼の鋭い視線に溜息を吐いた。 「…そんな怒んないでよ~、分かった。もう能力解除するから」  哉太が足で地面を叩けば先ほどの地面との密着はなくなり、すんなりと動かせるようになったので幸は介抱する。とりあえず額に大きなたんこぶが出来ていたので氷嚢を作り先生に押し当てて介抱をした。先ほどの行為の後だというのに淡泊な幸に哉太は誘うように彼に近づく。 「そんなことよりさ~、エッチの再開しようよ~。…俺、イケなくて困って―」  ―る。という嘔吐したのだが、哉太のサイレントモードのスマホが鳴ったのだ。 「哉太さん…早く出な」 「…ヤダ」 「……」  幸は視線を送れば哉太は大きな溜息を吐いて電話に出ることにした。着信は撫子からであった。 「もしもし? …俺、今すんごい機嫌悪いんだけど」  かなり嫌な顔をしている哉太は何の用事なのかを尋ねてみると…とんでもない言葉を聞いたらしいのだ。 「って、…?」 「…?」  その言葉に幸が傾げて見せれば、哉太は相槌を打ちながら身だしなみを整え電話を切る。すると同じく身だしなみを整えていた幸にこのような問い掛けをするのだ。 「花ちゃん、…の場所教えてくれない?」 「屋上…か?」 「うん。そこで撫子と躑躅(つつじ)で落ち合おうって!」  なぜ屋上なのか、そして木が暴れているとはどういうことなのかを知りたいが…哉太があまりにも焦っている様子なので幸は頷いて案内をしようとした。 「…なんだかよく分かんねぇけど、分かった!」 「ありがと。それと―」  ―また後でさっきのシようね? 「…お、おう」  気絶している保健医を置いて2人は約束を(ちぎ)ってから体育館へと直行したのだ。 「なんだあれ!!?」 「なにあれ~、なんかの出し物?」 「とりあえず逃げろ!!!」  保健室を出て体育館を通ると…そこには多くの人々がごった返し、人々の声が重なっては逃げる者までも居る。何があったのかと幸は駆けつけてみると…その光景は凄まじいものであったのだ。  ―――ガタッ…ガッタ…ガタガタっ!!! 「なんだあれ…?」  ―木が…暴れてる???  幸の言葉通りなんと木が暴れていたのだ。驚く幸に哉太は撫子に電話を掛け終えて安否の確認をした。どうやら2人は無事に逃げられたそうだ。 「…やっぱり”キー”なのか。…躑躅(つつじ)と撫子は無事みたいだけど…」  騒然とした状況の中で考え込む哉太に幸も心配になったのでフライに電話を掛けてみる。無事であって欲しいと願う中でコール音が数回鳴ったと思えば彼が着信に出てくれた。安堵する幸ではあるがフライからこのような言葉を掛けられるのだ。 「ジュジュちゃんと妹さんが木に取り込まれた!??」 「…マジかよ。場所は?」  幸の言葉に哉太が驚きフライに場所を尋ねるように言われたので聞いてみる。露店が集結している大きな通りだということが分かった。幸は電話を用件を聞いてから哉太と共に急いでフライの元へ駆けつける。  ―するとフライとスピード、そして麗永が人命救助を行っていたのだ。木に呑まれている人々を助けている皆に幸が大きな声を掛ける。 「お前ら大丈夫かぁ~!!!?」 「…さっちゃん、来てくれて助かったよ! …場磁石さんもだけど」  哉太は付け足したように言うフライなど気にせず、哉太は木に呑まれているジュジュを引っ張り上げようとする。脚に木が絡まれて動けないジュジュに哉太は不覚にも思ってしまった。  …この状態なら右脚に”狼”の入れ墨があるかどうか見えるかもしれない。…でもそしたら見えるまでは助けられない…な。  余計なことを思ってしまった哉太に今度は思わぬ事態が発生する。それはもう1人、木に呑まれて動けないでいる無能力者かつ”狼”でないうららも居るというのを。 「もう、こっちに来ないでって…っひゃあ!!!?」  高い所に囚われていたうららが木の枝から離され、地面へと真っ逆さまに落ちそうになっていたのだ。落ちそうになる身体を両手で何とか木に捕まって耐えようとうららは試みる。…しかし彼女は運動神経はかなり悪いので握力がそこまで無い。だからすぐに力尽きてしまいそうになってしまう彼女に麗永が助け出そうと駆けつける。 「うららさんしっかりしてください!!!」 「…おにい…ちゃん」 「この木がどうにかなれ…ば!!!」  うららを助け出そうとするが、木に絡まれそうになって上手く近づけない麗永の姿を見届けてからうららは涙を零すことしか出来ず…木の枝がポキリと冷たく残酷に鳴った。 「……うららさん!!」  真っ逆さまにうららは落ちていき彼女は死期を悟った。  ゴーグルを掛けた青年がいやらしく笑って事態を眺めていた。…黒髪で中性的な顔立ちをした青年の右脚には大きな”狼”の入れ墨があった。そんな彼は屋上のフェンス越しからとある人物を見つめる。 「さ~て。俺を見たらどんな反応を見せるかな~」  ―かなちゃんは?  青年は軽く微笑んだ。
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