不幸ヤンキー、"狼"が現れる。【3】

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不幸ヤンキー、"狼"が現れる。【3】

 うららが地面へと落下しようとした時、フライがとっさに術を唱えた。 「―翼よ。我に従い、我にかの者を救う力を見せよ」  ―――フワリ……。ドサッ…。  背中から生えた白い翼で地面へと落ちそうになったうららをフライは受け止める。何が起こったのか分かっていないうららが目を開けてみれば、自身は空中に浮いていた。 「あれ…私、死んじゃったの…かな?」 「死んでないよ、大丈夫。もう、降ろすから…うららさん?」 「……フライ…君?」  周囲が飛んでいるフライを見て驚くものの彼にとってはそんなことなどどうだって良い。安全な場所へうららを降ろしてから、フライは泣き出しそうになっている彼女に顔を合わせて微笑んだ。 「怖かった…よね?」 「……うん」 「ごめんね。すぐに助けられなくて…」 「…っひっく…」 「もう大丈夫だから、ね?」  優しく微笑むフライにうららは上体を前に倒して彼の肩に頭を寄せた。どうしたのかと思えば、うららは泣き出してしまいそんな中でも答える。 「…フライ君。私さ、死んだかと思ったから、力が抜けちゃっ…て…」  すると安堵したのだろう。気絶してすやすやと眠るうららをフライが抱き寄せて座らせた。  ―というその光景を麗永はしかと見届けたのであった。 「あの子…飛んでた…よね?」 「やっぱり何かの出し物…?」 「だって人間が、翼の生えた人間なんて見たことないぞ?」  助けられた人々や大木から離れた周囲が噂をすれば、幸はとっさに大声を出したのだ。 「もう舞台の準備は終わりだ~! 早くしねぇとセンセーに怒られるぞ~!」  人々の視線が幸へと向けば彼は、どうしようかと格闘している哉太に駆け寄り、耳打ちをした。…この現状を終結させる為に。 「ジュジュちゃんがどういう存在なのかは分かんねぇけど、今はこの状況変えることが先だ!」 「でも、この子が本当に”キー”じゃないかを―」 「哉太さん、お願い。…俺のお願いを聞いて?」 「……!」  幸が哉太に小さくお願いをすれば、された哉太は驚きと共に一回手を叩いて木とジュジュの脚を反発させて外した。願いを聞いてくれた哉太に幸は嬉々とするも、ジュジュに駆け寄ろうとする前に…哉太に囁かれるのだ。 「今の言葉…しっかりと受け取ったからね。…だから、俺のを聞いておくこと」 「…って?」  すると哉太は甘い言葉で呟いた。 「…最高にいやらしくてエッチな幸を見たい…かな」 「……バカ」  哉太の言葉に幸が顔を真っ赤にしていれば哉太はその場を離れ、人命救助に専念をする。そして絡まっていた木の枝から抜け出すことのできたジュジュは、顔を真っ赤にしている幸に疑問を抱くのだ。 「どうしたの、幸くん。顔が…真っ赤だけど?」 「なっ、なんでもない!」 「そう…?」 「気にすんなっ!」  真っ赤な顔を隠すようにそっぽを向く幸にジュジュは右脚を撫でてから立ち上がった。 「あとであの人に助けてもらったこと言わないと…」  そして2人も人命救助に加わったのであった。  撫子と躑躅(つつじ)が屋上へと上がれば…そこには黒髪の人間がフェンスを超えて座っていた。  ゴーグルを掛けたその人間は右脚迷彩柄のズボンを大腿部まで上げているのだが…その脚には"狼"の入れ墨が刺繍されていたのだ。その脚に見覚えのあった躑躅(つつじ)は驚いて叫んだ。 「…君はっ、”キー”なん…じゃ?」 「”キー”って、噂のアイツのことか?」  慌てふためく躑躅(つつじ)と呑気な声を出す撫子を尻目に青年は軽く笑った。 「あー。あんたは無能な方の兄さんか。久しぶりだね~。”かなちゃん”、元気?」  ”かなちゃん”という言葉で哉太の事だと分かった躑躅(つつじ)は自身の記憶を辿るのだが…。 「哉太は元気だけど…、あれ、おかしいな。僕の記憶じゃ、”キー”は女だって思っていたんだけど?」  躑躅(つつじ)の言葉に青年はゴーグルを外してからにっこりと微笑んでは彼を嘲るような言葉で罵った。 「あ~。俺、昔の方が女の子っぽかったからあえて女のフリしてたの。…騙されてたんだ~、ウケるね~つつじくんは~? …さすがは無能な出来損ないの”狼”だ」  笑いながら冷たい言葉を吐く青年に撫子が躑躅(つつじ)を庇う発言をする。 「おいおい。そこまで言うのは失礼じゃねぇのか? 俺が言うのもなんだけど、こいつは…躑躅(つつじ)は、別に”狼”じゃなくても良い奴だし、面倒見も良いぞ。…お前みたいに人を見下したりしないしな!」  撫子が明るく言い返せば青年は笑っては、ある言葉を口に出した。 「そう~。…でも、俺たちは2人とも”狼”だから、あんたの言ってる言葉は分からないや。悪いね」  彼の言葉に躑躅(つつじ)はひどく驚く。そんなこと聞いた事も無かったのだから。 「…? 君、妹か弟でも―」 「うん、いるよ。…でも、あの。…あの子はが作って…俺がだけ」 「じゃあどういう?」  さらに訳が分からなくなる躑躅(つつじ)と普段よりも無言でしかめっ面をする両者に”キー”は挑発するように舌を出してた。それから自身の身をフェンスの外へ投げ出そうと、飛び降りる前に宣戦布告をする。 「そこまでは教えられないよ。俺にもしてることがあるからね。…かなちゃんによろしく」  ―そしてフェンスから身を投げた。 「…じゃあね」   「まっ、待って!!!」  急いで飛び降りた先を見てみれば先ほどの青年…”キー”は()らず、しかも、暴走していた木々も落ち着いていた。  …って…どういうことなんだ?  事態が把握できずにいる躑躅(つつじ)ではあるが、とりあえず哉太に電話を掛ける。コール音が聞こえてから彼は恐れるように言葉を発したのだ。 「…もしもし、哉太…いや、皐月。…さっき屋上で”キー”と出会(でくわ)したんだ」 『マジかよ…。そいつ、どこ行った?』 「分からない…。あの子、消えたんだよね…」 『あの子って…。本当に躑躅(つつじ)は甘いんだから…。だからいつもあいつに―』 「…ねぇ、皐月。もしかしたらだけど、言って良い?」 『……なに、急に?』  すると躑躅(つつじ)は怖いものでも見たかのような声で哉太へ告げるのだ 「”キー”が何かヤバいことでも起こすかもしれない…、そんな気がするんだ」 『…はい?』  普段は冷静で穏便な躑躅(つつじ)の言葉に哉太が呆気に取られた。
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