不幸ヤンキー、”狼”が現れる。【4】

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不幸ヤンキー、”狼”が現れる。【4】

 様々な事態は起こったが、なんとか文化祭は無事に終了した。  幸のクラスが料理部門で優勝することも出来たし、木が暴れまわるといった騒ぎは後日、警察が介入して捜査することにもなった。だが鎮静化の為とはいえ虚言をしてしまった幸は反省文を書く羽目になったのだが…。  文化祭の後夜祭であるキャンプファイヤーの火を幸はぼんやりと見ていると哉太が彼に寄り添いそっと手を握った。 「”キー”のせいとはいえ大変な目に遭ったね~。しかも悪いのはアイツなのに花ちゃんが被害を被っているし。…ほんとアイツ、嫌な奴」  憤りを感じているのか、サングラスで見えにくいが普段よりも顔を(しか)めている様子の哉太に幸は少し笑った。その顔は皆、無事で良かったというような顔つきである。 「まあまあ。俺が反省文書いて丸く収まればそれでいいよ。大したことじゃないからさ」  意外にもあっけらかんとしている幸に哉太は目を丸くしてから素直な言葉を吐くのである。 「…花ちゃん、少し変わったね」 「へっ?」  哉太の言葉に幸が疑問を浮かべれば彼は思い起こすように上を向いては語る。 「ちょっと前の花ちゃんだったら『やっぱり俺は不幸だ…』とか言ってそうなのにさ~。なんかしてるというか、大人になった…というか?」  「…? よく分かんねぇけど少し前に麗永さんが言ってくれた言葉のおかげかな」 「え~、あいつになんか言われたの?」  すると幸は思い出すように話し出す。 「麗永さんから言われたというか…主観的? みたいな、自分だけじゃなくて遠くから見てというか考えた方が気が楽だって言うのを聞いて、そしたらまあいいやってなったんだよな~」 「…それは客観的っていう言葉を使おうね。…でも、そんなあいつも今はほら?」  哉太が指を差せばジュジュと…ではなくうららのことを離さないでいる麗永の姿が見えた。彼は笑みを見せてはいるが向かいに居るフライに対して説教まがいのことをしているのである。 「久遠君。君がうららさんを助けてくれたのには恩に着ますが…それとこれとは別です」 「は…はい」 「うららさんが万が一落ちてしまったらどうするんですが。僕も言い訳ですが助けられなかったことに対しては悔しい想いです。だけどあんな無茶な助け方をするのは良くないと僕は―」  麗永がフライに苦言を呈している姿を見て幸が首を傾げていた。すると哉太は可笑しそうに笑いながら説明をするのだ。 「きっと自分が助けられなくて悔しかったのもあるしさ~、そんであんなファンタジーみたいなカッコいい助け方されたもんだからムカついてるんだろうね~」 「まぁ確かに劇というか、映画みたいな助け方してたよな~。うん」 「……妹に対して大人げない奴。…ぷぷっ!」 「つまり春夏冬さんはだったのか…」  すると哉太はひどく驚いた様子で幸を見つめては軽く馬鹿にする。 「…花ちゃんがっていう言葉を知っていたことに、お兄さんは驚いたよ」 「バカにすんな。バかなたの分際で」 「え~。そんな冷たくなくてもいい―」 「あの!!!」  2人で話していれば今度はジュジュが哉太に話し掛けてきた。驚いて手を離そうとする幸に哉太は負けじと手を握る。そんな攻防をしている彼らを気に留めずに、あたたかい炎の光を背にして彼女は笑って哉太へ感謝を述べた。 「先ほどは助けていただきありがとうございました。本当に怖かったので助けてくれたのが嬉しかったです!」 「いえいえ~。そんなことないよ~」 「本当にありがとうございました。…では、失礼します!」  ジュジュが礼をして立ち去る姿を見てから幸は先ほどの手を離す行為を止め、されるがままになっていた。そんな彼に気を良くしつつも哉太は彼女が遠くに行くのを見ては呟く。 「…躑躅(つつじ)が言っていた”キー”のことも分からないし…あのジュジュちゃんの存在も分からないし…謎が深まるばかりだな…」 「そんな、ジュジュちゃんは結局は関係ないんじゃないか?」 「残念だけどまだ気は抜けないよ…。なんかごめんね、花ちゃん」  珍しく謝罪をする哉太に驚きつつも幸は軽く会釈をした。そしてあることに気が付いたのである。 「…というか、スピードは?」  スピードことあやめの姿が見えないので幸が探してみたのだがどこにも見当たらない。すると哉太はつまらなそうな顔をして言い放った。 「アイツはもう帰ったよ~。本当はあの白髪もやしと喋りたかったらしいけど…?」  その視線の先には、麗永に怒られつつも少々うららと親しくなっている様子のフライの姿。だがしかし、鈍感な幸には哉太が何を伝えたいのか分からずにいる。 「どういうことだ? あれって、どういう―」 「まっ、良いんじゃない~。アイツ、そんなに役に立たなかったし?」 「…なんかよく分かんねぇけどさらりと酷いこと言うなよあんたは…まったく」  キャンプファイヤーの炎に照らされてぼんやりと見つめていた幸と哉太。そして強く握られた2人の手。ジュジュに話し掛けられた時には羞恥のあまり手を離そうとしたものの…本当は離したくなかった。だからこうやって握られているのが心地良く…嬉しさを感じる。  …哉太さんの手、大きくて、ちょっと冷たい。でも、今はちょうどいいな。  そんなセンチメンタルな感想を思っていると哉太がいきなり立ち上がり話し掛けるのだ。 「ねぇ花ちゃん、屋上行きたい!!」  哉太が急に立ち上がったのでつられて立ち上がる幸はなぜ屋上へ行きたいのかを問い掛けるのだが…。 「…なんだよ突然?」 「いいからお願い~。連れてってよ~!」 「別に屋上に行ったって―」 「…そしたらこの場でお姫様抱っこして徘徊するけど…良いの?」  哉太の強気な言葉に幸は参り彼を屋上へと案内した。
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