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不幸ヤンキー、”狼”を間違える。【2】
店主に一言帰ることを伝えてから、幸は眠っている大柄な哉太を背負って店を出る羽目になった。
しかしさすがに男2人…というより幸自身がリードしてラブホに行けるほどの度胸は無い。だから幸は自分の家に送ることにしたようだ。
「さすがに…重い…」
ヨタヨタと担いで歩いていけば、眠りこけていた哉太が少し動いてから自身の状況に驚きを見せる。
「あ…れ。俺、寝てたの?」
「お、起きたか」
「…って、花ちゃんに背負われてんの、俺?」
状況が分かっていない哉太に幸は軽く溜息を吐いた。というか、小柄な人間が自分よりも体格のでかい大男を担げるとは…さすが幼少期のあだ名が一時期”ゴリラ”の異名を持ったヤンキーもどき青年だ。
そんな彼は哉太を担ぎながらネオンに輝いていた夜空を見上げて歩いていく。
「やっと起きたか…。起きたんなら自分で動いてくれ。さすがに大男を背負うのは疲れた…」
「ああ、ごめんよ~。…もう降りるから!」
哉太が身を捩じらせたので幸が哉太を下ろせば、彼はにんまりと笑ってから幸に近づく。急接近する哉太に今度は幸が驚けば哉太は軽いキスをしたのだ。
―――チュッ。
「重いのに背負ってくれたお礼。…あんがと」
にっこり笑う哉太に幸は顔を赤くして文句を放つ。
「…外だってのに何してんだよ。…というか思ったよりもあんた酒臭くないな。そこまで飲めないタイプか?」
「そうだね~。嗜む…いや呑まないかも~。でも―」
―なんか今日は呑みたかったの。
珍しいことを言う哉太に幸は問い掛けた。
「…何かあったのか?」
すると哉太は幸の耳元で囁いてはある条件を出した。
「1つは嫌な事だから幸が俺にキスしてくれたら話す。…もう1つは良い事だから俺が幸にキスさせてくれたら…話してあげても良いけど?」
「なっ、なに言って…!? そんなのほとんどあんたが良い条件でしか―」
「ほお~。幸は知りたくないの? …下戸な俺が酒を飲んでまで嫌だった事が」
「そ…それは…」
「…悲しいなぁ~。恋人なのに~?」
哉太のずるい言い方に反論できないでいる幸。だから彼は哉太にこんな言葉掛けをしたのだ。
「…哉太さん。ちょっと屈んで?」
「う~ん。幸は俺よりも小柄だからちょっとじゃ―」
「うっさい。早くしゃがめ」
「…はいはい」
哉太と目線が合っては胸を高鳴らせる。そんな中で幸は意を決したように…触れるだけのキスをするのだ。
―――チュッ。
幸にとっては精一杯のキスであったので唇を離そうとするのだが…哉太が幸の顎を掴んで深いキスをしてきたのだ。
―――クチュゥ。プチュゥ。ジュゥ…。
「ふぅん…うぁぁっ…ひぃぅ……!」
舌を絡ませ歯列をなぞり、上顎を大きな舌で舐められて幸は息苦しさを感じた。でも―
…苦しいけど、キモチィ…。
心が満たされる感覚を覚えた幸に哉太が唇をゆっくりと離していく。口元から垂れた銀色の糸を手繰り寄せれば、呼吸を乱して目を潤わせた幸が居た。そんな可愛らしい恋人に哉太は笑ってから抱き締めるのだ。それに幸は驚く。
「ちゃんとキスしてくれてありがとね。…でも、今度はもっと大人な幸のキスを期待してるから」
「…その前に、ここは人通りが少ないけどコウシューのメンゼン? でキスをした俺になんか言ってくれよ」
「公衆の面前ね~? まあ確かにそっか。…じゃあ話しながら教えてあげる。花ちゃんの家で良いんだよね?」
「おう」
先ほどとは打って変わり、今度は哉太が幸を姫様抱っこして幸の家に向かおうとした。驚く幸ではあるが、恥ずかしくて口が裂けても言えぬが…担がれるのはもう慣れていた。だから大人しくして見せれば、哉太はふわりと笑うのだ。
「俺ね~。サイン会するんだって~。人嫌いなのにさ~。…でもね、会場が花ちゃんの通ってる高校らしいのよ~」
初めての新事実に幸は目を見張りつつ率直な感想を述べる。
「えっ、そうなのか? 知らなかった…」
「急きょ決まったことだからね~。…というか冗談で幸が居る高校が良いって言ったらそうなっちゃった。…撫子の執念がハンパねぇわ。本当に」
「あはは…。あの人はそんな感じはするな…」
哉太に抱かれて話していけば、幸の家にはもうすぐで着いてしまいそうだ。少し寂しさを感じるが素直に寂しいとは言えない幸。そんな彼は哉太にこのような相談を持ち掛けるのだ。
「あの…さ。ちょっと相談したいことがあんだけど。良いかな?」
すると哉太は幸に顔を見せてから返事をする。普段通りサングラスを付けているが恐らく笑っているのだろう。
「いいよ~別に。でもその代わりに条件」
「…はあ? またかよ…。今度はなに?」
幸が尋ねれば哉太は答えるのだ。
「サイン会の日がね、ちょうど花ちゃんの高校の文化祭らしいのよ。…時間見つけてさ、一緒に見て回ろう~!」
「えっ…それだけ?」
「うん。俺、屋台とかでご飯食べたいし!」
条件にしては幸も嬉しく感じてしまうのだが…だが不明点はあった。
「そんなの全然いいけどさ…。あんたサイン会なんじゃ?」
幸が問い掛ければ哉太は考えた素振りを見せる。そしてこのような返答をしたのだ。
「まあなんとかなるから…っね?」
やけに自信ありげな哉太の言い草に幸は疑問を覚えつつ家に着いたのであった。
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