不幸ヤンキー、”狼”が現れる。【5】

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不幸ヤンキー、”狼”が現れる。【5】

「ほら、やっぱりだ…。”この時間は入るな!”って書いてあるだろ?」  屋上に上がる前に立て札がされていた。しかも鍵がかかっていたので幸が戻ろうと促すが…。  ―――パァッッン!  すると哉太は1回手を叩いたかと思えば、立て札とドアを反発させて屋上へと乗り込んだのだ。  ―つまりぶっ壊したのである。そんな彼に幸は深い溜息を吐くのである。 「あんた…自分が何してんのか分かってんのかよ」 「でも俺のありがた~い力のおかげで、屋上に来れたってことは分かったよね?」 「……怒られんぞ?」 「良い~もん。俺なら大丈夫だもん!」 「なんだその底知れぬ自信は…。俺は知らないからな」  封鎖されていた屋上へと2人が入って行く。当たり前だが人っ子1人も居ない。明かりは下からのキャンプファイヤーのあたたかなオレンジ色の輝きぐらいだ。 「こんなとこ来て―」  ―何をするんだ。と幸が文句を発しようとした時……空から花火が上がった。  ―――パァンッンン…。パァッン…。パンッ…。  見事な花火に幸は驚いて目を見張り、哉太は満足そうに微笑んでいた。 「なんで…、でも、キレイ…だな」  下からの歓声が上がる中で幸が不意に呟けば哉太は名残惜しそうに手を離したかと思えば…幸を抱き締めたのだ。 「哉太…さん?」  突然のことに驚く幸に哉太は抱擁しながらなぜ屋上に来たのかを話し出す。 「躑躅(つつじ)から聞いてたの。『今日は予定通りであればサプライズで花火が上がるから、と見に行きな』って」 「…!??」 「騒ぎがあったから心配はしてたんだけど…予定通りに上がって良かったよ」  顔を埋めては囁くように哉太が話すのでくすぐったさと共に、変な気分になりそうなる。恥ずかしさのあまり、幸は気づかないフリをした。だが、哉太の兄についてさらに関心を抱いたのは事実である。 「そっか…。躑躅(つつじ)さんは気づいてたんだな」 「躑躅(つつじ)は昔から人を気に掛けては貧乏くじを引く人間だからね~? …弟としては困り者だよ」 「そんな心の広いお兄さんが居るから、こうやって俺を連れ出せたんじゃないのか?」  図星を突かれる哉太は無言になったかと思えば、小声で幸の弱点である耳に囁くのだ。 「…幸のイジワル。ずるいよ?」 「哉太さんに言われたくはない…かな?」 「あは。幸ってやっぱり…可愛いね」  お互いに軽く笑いあって哉太は幸を抱き締めている腕を緩めたかと思えば、対面に向かせた。  ―そして哉太が幸の身長に合わせて…咲き乱れる花火の前でキスをするのだ。  ―――クチュゥ…。プチュゥ。クチュウ…。 「ふぁ…うんぅ…んんぅ……」  ―――パァッッン…。パァッッン…。  熱く濃厚なキスをされても幸は怒らずに哉太の頭を撫でるようにして応える。花火の音に紛れて奏でられるキスの音は不思議と2人を興奮させる。  しかし哉太から身を引いて唇を離したのだ。銀の糸が花火の輝きで艶やかに映り、幸の真っ赤な顔も垣間見える。息切れをして紅潮した顔を見せる幸に哉太は再び抱き締めてこのようなことを語り出した。 「俺さ。仮に”一匹狼”(ロンリーウルフ)になっても名誉とか叡智(えいち)とか富とかはそこまで欲しくはないな~。親から、他人から勝手に言われて期待されて、そうしてるだけの、そうすることしか許されない人生だったからさ。…あんまり望んでもない」  少し寂しそうな顔をして話す哉太に幸はなんと声を掛ければ良いのか分からない。だが哉太がそう望むのならと、自分なりの言葉を紡ごうとする。 「そっか…。だったら無理にでも―」 「…でもね、今はすんごく欲しくなったの。…なんでか分かる?」  サングラスから覗く真紅の瞳に魅せられて問われる幸は少々考え込むが…やはり分からない。難しい言葉ばかり出てるので把握し切れてはいないが、哉太は金持ちでもあるし頭も良い方だし、ルックスだって…そんな彼は一体何を望むのだろうか?  ―すると急に幸は尋ねてみたくなったのだ。 「…分かんない。どうして?」  幸が尋ねてみれば哉太は耳元で囁いたのだ。突拍子もなく、あり得ないことを。 「男でも幸との子供が欲しいから…かな」 「…はい?」  不可能なことを言い放つ哉太に幸が変な声を出せば、哉太は彼をフェンス越しに押し倒したのだ。  ―――ガシャンッ!  音が鳴り響く中で哉太はサングラスを襟元に掛ける。花火で照らされて赤く輝く瞳はいつにも増して美しい。そんな哉太は笑みを浮かべながら幸のTシャツのボタンを外していくのだ。  …いつもより、哉太さんがキレイ。  だが出てくる言葉は彼を誉めるような言葉ではなく現状を知らせるだけの拙い自分の言葉。そんな天邪鬼な自分に腹が立つのはこれで何度目だろうか? 「こんなところでヤる(セックスする)のかよ…。誰かに見られたらどうする?」  すると彼はしたり顔をしてにっこりと…まるで出会った頃を想起させるような笑みを零した。 「だいじょーぶ。さっきカギ閉めておいたからさ」 「あんたいつの間に…?」 「まぁそんなことより」  ―早く幸を食べさせてよ?  ―――ッチュ。  額に軽くキスをする哉太に幸の心臓は破裂しそうであった。
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