不幸ヤンキー、”狼”に興味を持つ。【1】

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不幸ヤンキー、”狼”に興味を持つ。【1】

 ―その少女は神の使いか、はたまた閻魔からの使いなのか…? 『あなたは去年の夏ごろに女性と密会しましたね。…奥さんが居るのにも関わらず』 『そ…、そんなことはなくて!』  わなわなと手を震わせる男性の手をしっかりと握り少女は言葉をはっきりと述べる。 『でもあなたの”過去”から読み取ったモノです。過去はすべてを表します。…悔い改めなさい』  すると男はすぐに項垂れて反省を示すような態度を取った。…自身の罪を認めたのであろう。 『…申し訳ありませんでした』  画面越しで小さな少女が男性に向けて言い放つ姿はとても異質に思える。しかし少女の言葉で男は涙を流しながら懺悔をするのだ。  その少女は髪の毛が黒と白が入り交ざったような髪色をしており2つに高く結わいていて、そして…右頬には大きな”狼”の入れ墨が入れられていた。恐らく能力で男性の過去が見えたのだと推測が出来る。  少女の背後にはマネージャーらしき男性が座っておりパソコンを操作していた。どうしてのかと問われると『記録の為』と証言をしている。  ちなみにだが過去を見られた男性は割と名が知られた有名俳優であった。しかし彼が浮気をしていた事実は画面上だと批判の声が殺到している様子で。そのさまを見てはパソコンをいじっている男性が立ち上がり少女にを伝えたのだ。  ―耳打ちをされた少女は画面上のネット民へ声高々に言い放つのである。 「皆さん、人間は常に失敗をするもの。…失敗をすることで大きく羽ばたく翼が生えるのです!」  少女の言葉に画面上の批判が鳴り止んだ。…彼女は何者であろうか? 「さぁ、皆さん。この方を許して差し上げましょう!」  画面の音からファンファーレが鳴り響き、作られた拍手の音で男は自身を抱いた。そしてネット上でも歓喜する。  ―囲戸(かこいど) (こころ)、バンザイ!!! と…。  幸の家にて。餃子の餡を包みながら幸は哉太がスマホで何かを見ていたので気になって聞いてみることにした。 「哉太さん、なに見てんの…ってこれなんだ?」  幸が見たのは少女の姿を周囲の人間が(たた)えるようなコメントで溢れている画面であった。恐れ(おのの)く幸に哉太はつまらなそうな顔を見せながら説明をする。 「あ~…、最近話題の”狼”の女の子。囲戸(かこいど) (こころ)ちゃんっていう子なんだけど…。あ~…だなぁ~」 「面倒って、何が?」  餃子の餡を包み終わり焼こうとする前にフライパンに餃子を並べていけば、哉太はうんざりとした様子で言い放つ。 「今度さ~、恋愛ミステリーを書こうとしてんだけどね~?」 「ふぅ~ん。それでなんでこの子が?」  餃子を並べ終えてから点火する幸に哉太はぐったりとしている様子だ。 「その題材が欲しいって言ったらさ~。…撫子がこの子にアポ取ったせいで会う羽目になったんだよ~。俺、可愛そうじゃない~?」  あからさまに面倒な表情を見せる哉太に幸は呆れてしまう。  …この人、本当に自分が恵まれているのが分かっていないな…。  だから彼を嗜めるような言い方をするのだ。 「なにがだよ…。逆に俺は、撫子さんがわざわざあんたの為にアポ取ってくれたっていう事実にありがたさを感じるけど?」  少し焦げ目を付けてから水を入れて水分を飛ばして蒸し焼きにしながら餃子を焼いていく。  ―――ジュワァッッッ…!  そんな冷たい表情を見せる幸に哉太は涙目になるのだ。 「花ちゃんひどい…。俺のになって考えてくれると思ったのに!!!」 「…立場って?」  どんな立場だと尋ねてみれば彼は涙ながらに語り出すのだ。 「こんな気味の悪い能力使われて俺の過去が丸裸にされるんだよ!!? 純粋無垢で年相応な女の子に俺のあ~んな醜態を晒される日には…俺は恥ずかしすぎて自殺する可能性が―」 「俺はあんたがそれを逆手にとって『いや~。隠してはいたんですけどそういう(たぐい)には縁がありまして…』みたいなことを言って恋愛小説家としての知名度を上げるのかな~って思ったりしてるけどな」  最近は自分の将来を考えて勉強に(いそ)しんでいる幸に哉太は目を丸くした。 「…花ちゃん、なんか語彙力上がったね…。お兄さんびっくり!」 「バカにすんなっつ~の。…よし。焼きあがったかな?」  火を止めて大きな皿にフライパンの蓋をしてひっくり返して見せれば、綺麗なきつね色に焼きあがっていた。ふわりと香るニラとキャベツの匂いに食欲をそそらせる。  すると先ほどまでの涙目は演技だったかのように哉太は赤い瞳を煌めかせた。 「美味しそう~!!! 早く食べたい!!!」 「はいはい。味噌汁よそってくるから、哉太さんはサラダと取り皿よろしくな?」 「まっかせて~!!!」  焼きあがった餃子をちゃぶ台に置き、味噌汁をお椀にすくって並べれば今日の夕食の出来上がりである。本日は祝日であるのでゆっくりとした日を送っていた幸と哉太は仲良く手を合わせてから夕食を頂く。  談話をしながら食べ進めていけば哉太は思いついたように言葉を発した。 「そうだ! …花ちゃんが俺と一緒にお風呂に入ってくれたら、俺、頑張れるかも」  突飛な言葉を放つ哉太に幸は疑問を抱いた。だから問い掛けるのだが…。 「…はぁ? 俺ん家そんなに風呂でかくないぞ。なんでまた―」 「で入りたいから。…の意味で」  哉太が赤い瞳でウィンクをすれば幸は顔を真っ赤にして紛らわすように言う。 「…にらとニンニクでまともなこと出来ねぇんじゃねぇの…?」  恥ずかしさもあるが本当にそう思ったので正直に伝える。するとその言葉に哉太は懐から…あるモノを取り出したのだ。…それはいわゆる、息が匂う時に使用されるモノ。そしてニヤリと笑うのである。 「だいじょーぶ。歯磨きしてブレ○ケア食べればなんとかなるから!」  そんな彼の…哉太の準備万端で性行為をしようとする姿に幸は再び呆れてしまう。しかし彼の脳内で習いたてほやほやの言葉も出てきたのだ。 「…こういうのを…えっと。って言うんだっけ?」  すると哉太は悪戯に口元に弧を描いた。 「正解~。んじゃ、楽しみにしてるから!」  元気よく餃子を食す哉太と味噌汁をすする幸の…のどかな光景がそこにあった。
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