不幸ヤンキー、”狼”に興味を持つ。【終】

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不幸ヤンキー、”狼”に興味を持つ。【終】

 ―それは撫子と躑躅(つつじ)が心の取材をする数分前のことであった。 「いや~、やっと取材が出来るな~。大いに楽しみだ!」  はしゃいでいる撫子に躑躅(つつじ)は溜息を吐いては言い放つ。 「撫子ははしゃぎすぎだよ~。あぁ~大丈夫かな…。不意に僕の過去とか見られて『あなたは場磁石家から追い出されて…』とか言われたらどうするの…?」 「そしたら結果オーライだな!」 「そんなあっけらかんと言わないでよ…。まぁ哉太にも困ったものだけどさ」  実弟である哉太の極度の人間嫌いにまた溜息を吐く躑躅(つつじ)ではあるが撫子は相変わらずニヤついていた。…だが、この含みのある笑みは人が不幸な目に遭って笑っている顔つきである。それは当たり前だ。  ―なぜならば。 「場磁石は彼岸花に説教されてるだろうから良いだろ~!」 「…やっぱりか」  自分の直感が的中したが喜べない弟想いの躑躅(つつじ)に人の不幸が大好きな撫子は高らかに笑う。そんな彼に躑躅(つつじ)は呆れてしまう。 「はっはっは~! 会った時の顔が楽しみだ!」 「…撫子も性格が悪いね…。まぁでも…なんとかなるか…!」  躑躅(つつじ)が少し息込みを見せればノックの音が聞こえた。 「はい。どうぞ」  返事をすると入って来たのはパソコンを片手に持った眼鏡を掛けた男性と、ツインテールをしたまばらな髪色の少女…囲戸 心が入って来た。2人は彼らに一礼をしてから自己紹介をする。 「初めまして。わたくしは心のマネージャー兼、父親の囲戸(かこいど) 心司(しんじ)と申します。…こちらは娘の心です」  名刺を撫子と躑躅(つつじ)に交換すると共に娘の心を紹介する心司。  ―だがその瞳は何かを探っているような瞳であった。しかしそれに気づいていない撫子と疎い躑躅(つつじ)は両者ともに握手をしてしまったのだ。…それはと噂される心にも。  ―だが気づいてからは遅かった。 「あ…、握手しちゃった」 「ははっ~、すまん。俺もだ!」  躑躅(つつじ)の手を握ってから離さない心に心司は(さと)すような言い方をする。 「こら、心。勝手に人の過去を見てはいけないよ。…田中さんにもプライベートがあるのだから、ね?」 「…はい、お父さん。ごめんなさい」  人形のような謝り方をする心は躑躅(つつじ)の手をゆっくり離してから席へと座る。すると心司は撫子と躑躅(つつじ)に謝罪をしたのだ。 「申し訳ありません。…心があなたがたの過去を見てしまったようでして。…さすがに他言無用にはさせておきますが」  だがその瞳はやってやったぞと言ったような雰囲気を醸し出す心司の様子に、今度は撫子が笑いながら仕掛けるのだ。 「はっはっは!!! これはしてやられましたなぁ~!」  豪快に笑う撫子に心司が圧倒されつつも彼は問い掛ける。 「…それでは俺の過去はどう映りましたかね。…ああ、一般市民の過去を見てもネタにはなりませんかね~」  普段通りに笑う撫子にたじろぐ心司ではあるが彼は心に尋ねてみれば首を横に振るのだ。そして真顔で言い放った。 「言いたくない。…だってこの人の過去は興味ないから」  冷めた少女の発言に躑躅(つつじ)は冷や汗を掻くが、言われた本人は気にしていない様子だ。 「はっはっは~! それは申し訳ないことをしたね。すまなかったね~!」 「…別に良い。大変なことをしているだろうけれど、あなたは私が救済しなくても救われる人間だと信じてるので」  身勝手すぎる言葉だが、言葉のイントネーションに抑揚がありすぎる撫子は気にせずに大きく笑う。 「じゃあこれからは良いことをしないとだな~! いや~、参った~」  笑う撫子をよそに今度は心司がパソコンを取り出し何かを探しいる様子であった。そして何かを探したかと思えば心に向けて言葉を掛ける。 「じゃあ心、…試しに田中先生の過去を見てみようか。…まあざっくりとで良いから」 「…はい、お父さん。分かりました。」  人形のように返事をした心は躑躅(つつじ)の瞳をまっすぐに捉えて離さずに言うのだ。…それは本来であれば躑躅(つつじ)自身のことのはずなのに…。 「あなたは小説が救いだったのですね。…あなたは私と同じ”狼”。そして場磁石家の跡取りでもあった。期待されて育った反面、重圧があったのでしょう。自身の能力の為に自分を犠牲にして能力を高めてきた。…そうですね?」 「…っえ?」  …俺じゃなくて、皐月(哉太)の…こと?  疑問を浮かべるものの彼女はきにせずにさらさらと話を続ける。 「しかし小説があったから今のあなたが居る。…あなたを支えてくれる人に感謝しないといけませんね」 「あ…はい…」  言葉を終えた心は今度は何も言わずにただ座っていたのであった。 「ちょっと待て! 最後以外違うじゃんか」  幸が困惑した表情を見せる。だって、本来であれば…。 「…普通なら躑躅(つつじ)さんの過去が見えるはず…だろ?」  疑わしげな目をする幸に撫子は大いに笑い、躑躅(つつじ)は頷く。  ―そして状況を聞いた哉太はふと、このような言葉を紡ぐのだ。 「何か裏があるね…? …興味が湧いたよ。その子に…」  この出来事が”狼”同士ならぬ”狼”争いの舞台開幕であった。
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