不幸ヤンキー、”狼”に魅了される。【4】

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不幸ヤンキー、”狼”に魅了される。【4】

 2人が学生ホールへと向かえば、多くの人だかりが出来ていた。その光景を見て幸は驚愕し感嘆してしまう。 「うわ~、なんかすごいな…。あの女の子の為とはいえ…すげぇ…」 「確かにすごいね…」  哉太も驚いている様子であり辺りを見渡してみれば…そこには小柄はあるが白髪の髪をした青年と、その隣には長身かつ長髪のチャイナ服を着ている人物に目が行く。 「おっ、もやしとスピード発見!」 「どこだよ?」 「あんなはっきりとした髪に服装見れば分かるでしょ…。さすが背が低い―」 「うっせぇ。一応、日本人の標準の背丈はあるわ」  …ちょっとだけ小さいけど。  自分の背の低さに感傷を抱きながらも哉太は気にも留めず、幸に彼らの居場所を指さした。 「あそこに座って…って、カメラマン居るじゃん!? すごっ…」 「え、やば!」  幸と哉太が驚くさなか、フライは少し緊張している様子だ。そんな彼に心司はカメラマンに指示をしてから自分は心とは少し離れた場所でパソコンを操作している。 「それじゃあ行きますよ~。はいスタート!」  合図がされてから、心はフライの手をしっかりと握った。  ―”過去視”が始まったのだ。  緊張する面持ちのフライの手を握り、心はゆっくりと語り掛けた。 「可哀想に…。あなたはある人間の手によって攫われて私と同じ人間にされてしまったのですね。…でも良かったです。あなたを助けてくれる方がたくさんいらっしゃるんですね。…特にの人に」 「…さっちゃんのことですか?」  すると少女は首を軽く振って訂正をする。 「名前は過去では存じることはできません。ですがこの方はあなたの運命の相手…になっているのですね。大切な人としての…」  少女の言葉にフライはゆっくり微笑んでは言い切った。 「はい…。とても大事で…大切な友人です」  愛しげに話すフライに哉太は苛立つ様子を見せた。  「あのクソもやし…いつか覚えてろよ」  大人げないほどの恨みごとを言い放つ哉太に気にも留めず、幸は心の”過去視”感嘆を覚える。  そして少女はフライの手を離しては言葉を掛けた。 「あなたはとっくに救われていますね。…今のを大切に精進をして今の道を進んで下さい」 「あ…はい」  言葉は丁寧であるがそっけない心の言葉に、フライはたじろぎつつも礼をする。するとフライが幸に気が付いて手を振って見せれば他の観客からの盛大な拍手と称賛が送られた。 「うそっ…、あの赤い髪の子居たよ!??」 「心ちゃんの”過去視”は本当なんだ!!!」  皆が絶賛する中で心は言い放つのだ。 「私は迷える子羊を救えるような人間になりたいのです。あなた方を救えるような…そんな人間に!」  大きな声を上げる心と彼女に視線を向ける観客の人々。…しかし哉太は違った。  彼はパソコンを操作している彼女の父である心司に気付かれぬように接近していたのだ。すると彼は気づいた様子でパソコンの画面を閉じてしまった。」 「なに見てるんですか、…営業妨害ですよ?」  するとあっけらかんとした哉太は話し出した。 「いや~。パソコンでなんかいじってるからさ~。…なんかあの子にでも渡してんのかと思って」 「なぁっ!??」  哉太の率直な意見に驚く。  そう。哉太は心司が操作していたパソコンに興味を持っていた様子であった。しかし心司は鼻で笑いながら哉太に言い放った。 「仮にカンペで言ったとしても私はあの子に…心にどう伝えるんです?」 「まぁそれは疑問だね~」 「あの子は長い髪ですが、髪を高く結っていてしかも2つに結わいてるんですよ?」 「ツインテールね」  にこりと微笑んで馬鹿にするように笑みを零す哉太に、彼は挑戦を抱いているような彼に侮蔑するような視線を送った。 「…そのツインテールだが知りませんが、心の耳には何も装着はしてませんよ。それでもあなたは疑う…とでも?」 「まぁ…そうね~」  何も言えない哉太に勝ち誇るような笑みを見せる心司は、彼の脇腹に刻まれている”狼”の入れ墨を見てから再び笑った。 「まあ、今日はあの子、少し能力を加減したようですからね」 「ふぅ~ん」  納得がいかない様子の哉太に心司は席を立ちあがった。 「…では、わたくし達は次の現場があるので失礼します。…の若い方?」  パソコンを片手に携えて心を呼び、2人はその場を離れた。  そして人々が学生ホールを離れる中で、哉太だけが審議を掛けている様子である。  そんな彼の様子に過去を見てもらったフライは興奮した様子で言い放つ。 「心ちゃんの”過去視”は本物ですよ~、なに疑ってんですか?」 「俺もそう思います。見ず知らずのフライ先輩の過去も言い当ててましたし」  フライとスピードが口々に言うが…幸は違った様子だ。 「でもそれにしては簡単だったよな。…幼少期の過去、例えば、俺とお前が初めて会って話したことは言ってなかったし」  鋭い感性の幸にフライは戸惑った様子で話し出す。 「それは…まあ。でも、赤い髪の人だって断言してたし!」 「う~ん。なんか納得いかないな~」  それでも幸は納得がいかないようだ。そんな彼らに哉太はスマホを見てから言い放つ。 「あいつに相談してみよっか。…一応”狼”専門の刑事だし」 「…誰に相談するんだ?」  幸の言葉に哉太はニヤリと笑うのだ。 「警視庁きってのキレ者…麗永にだよ」  しかしこの時の哉太は、そう簡単に出来事が上手くいかないことを今は知らないでいた。
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