不幸ヤンキー、”狼”に魅了される。【5】

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不幸ヤンキー、”狼”に魅了される。【5】

 麗永に連絡をして数日経った頃。期待していた哉太ではあったがそっけない返答が来たのである。 『残念ですが、この事件には関わりたくないんです。この少女は、と似てるから嫌なんです。私情を挟んでしまい申し訳ありません』  ただそれだけを書き残したままであったのだが。 「麗永。悪いけど、今回はお前の手を借りなくても」  ―俺は動くよ?  そして哉太は珍しく有言実行をするのであった。 「ふひ~、やっと着いたね~。最近行ってなかったから迷いそうになった~」 「あんた講師だったんだから迷うなよ…」 「アルバイト講師だから他の高校も飛び回るんだよ~。でも最近は小説の売れ行きが上々だから行かなかったんだよね~」 「…な奴」 「……俺は幸にどんな酷い言葉を言われても、言葉が身についてきたと実感できるのなら耐えて見せるよ!」 「うっさい…」  私立の有名進学校に降り立った哉太と幸。哉太はともかく幸が初めてバイトを休んでまで来た理由はというと…。 「哉太さんさ~。春夏冬さんの妹さんに直接会いに行って聞くってどういうことだよ?」  …妹さんに直接聞けばいいのに…。  この学校は自由制服であるので生徒達はそれぞれの制服や服を着ているのを見ながらも、幸が問い掛ければ哉太は不遜な顔を見せた。少しいじけている様子だ。そんな彼は幸と寄り添って歩きながら文句を募らせる。 「だってさ~、麗永に聞いてもはぐらかされんだもん!」 「はぐらかされた…なんでだろう?」 「まぁよく分かんない…そしたら本人に直接聞いた方が良いじゃん?」  麗永らしくない行動に幸は驚くが、子供っぽい哉太にも幸は溜息を吐く。そんな彼に哉太はニヤついてから言い放った。 「でも花ちゃん~、…大丈夫。奥の手があるから」 「…奥の手って?」  廊下を歩きある教室へ行くと哉太は大声で机で寝むりこけているある青年を呼びかけるのだ。 「お~い、チャイナ服に紫髪かつ長髪であのもやしに気があるくせに言えないでいるポンコツ―」 「あ~!!! 場磁石様と彼岸花先輩ですね!」 「…スピード?」  驚くべき人物に幸は呆気に取られると彼は慌てた様子で言い放つ。 「お待ちしてました! そんじゃ、早くこっちに!!!」  哉太の下僕ことスピードは2人を案内する。哉太は悪気はないようだが、この仕打ちに幸は少々可哀想だなと感じた。 「ごめんなスピード…。哉太さん、わがままだから…」 「いえいえ! 大丈夫ですから!」  幸が軽く謝罪をすればスピードは苦笑を浮かべてうららが居る教室へと向かう。  …というか、スピードとか妹さんってこんな頭いい学校に通っていたのか…。  最近勉学に励んでいる幸にとって、彼らの頭脳の差に自身の劣等感を抱いてしまった。 「えっ、先生…と彼岸花君…、なんでここに?」  スピードに呼びかけられて来てみれば2人が来ていることにうららは驚いていた。そんな彼女に哉太は笑いながら尋ねてみる。 「春夏冬さんにさ~聞いてみたいことがあって!」 「え…なんですか急に?」 「突然なんだけど…君の幼少期を教えてくれないかな?」  するとうららは不覚考え込んでは唸っている様子である。 「…幼少期ですか。う~ん……」  更に考え込む前にうららは首を振って言い放った。 「ごめんなさい。私、かなんかにあって頭の損傷のおかげで記憶が無いんです。中学2年生以前の記憶も無いし…。お兄ちゃんに聞いてもはぐらかされて…。それで私の記憶に何か?」  衝撃的な言葉を言い放つうららに3人が驚けば、スピードが何かを考え込んでスマホを取り出そうとして…止める。そんなスピードを傍目に哉太は笑ってからうららに礼をした。 「ありがとう。それが聞けて十分だよ。…変なこと聞いてごめんね」  すると彼女は首を振ってにこやかに笑う。 「いえいえ~、あっ、ごめんなさい。今日もバイトなので失礼します!」 「そっかそっか~。じゃあまたね~」 「彼岸花君もありがとね~!」 「おう。大丈夫だから」  幸の声にうららが笑みを見せれば彼女は去って行った。そんな彼女の背中を見てからスピードがスマホをしまおうとすれば、哉太が彼の手元からスマホを取り出し写真を眺めた。 「あっ…」 「隠そうとしても無駄だっつぅ~の」  映されていた写真には長い黒髪を背中まで伸ばし笑みを見せている少女。…しかしその笑顔はまるで作られたように見えた。 「ふぅ~ん。延島(のべしま) レイね~…。この子確か、って謳われてもてはやされていた子じゃん?」 「あ…俺、その子知ってる…でも」  幸が口を(つぐ)んでしまえば代わりに哉太が答えたのだ。 「…でも交通事故に遭って死んだとも言われてる子…だね」 「スピード、なんでその子を見てたんだよ?」  幸が問い掛ければスピードは少し顔を伏せて話し出すのだ。 「噂ではその子の地毛は銀髪で…生きていると聞いていたからです。でもその当時のその延島 レイって子は天才子役とは言われていたけれど…関係者の方からは」  ―人形のような子だった。  スピードの発言に幸はふと言葉を紡ぐ。 「…人形、か」  するとなんとなく心を思い出し、彼女も人形のようだと考える幸が居たのであった。
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