不幸ヤンキー、”狼”が襲来する。【終】

1/1
前へ
/60ページ
次へ

不幸ヤンキー、”狼”が襲来する。【終】

 麗永の連絡を受けてタクシーに連絡をして乗り込む哉太と幸は、車内にてうららの心配をする。 「妹さん…大丈夫かな。もしもさっきの話が本当なのだとしたら…春夏冬さんが妹さんの過去を教えなかった理由も…少し分かるような気がする」  幸が真剣な表情を見せるが哉太は顔を青ざめていた。そして言い放つ。 「妹さんのこともそうだけど、俺は麗永に怒られないかどうか心配だよ…。あいつ意外とねちっこいからな~」 「哉太さんが通常運転で良かったよ。うん」 「…花ちゃんバカにしてる?」  そんなことを言いながら燕の洋館へと到着した。2人がタクシーから出れば燕が昔ながらの懐中電灯を下から当てて待っていたのだ。 「ひぃっ!?」 「おっ!?」  驚く様子の幸と哉太に燕は溜息を吐いた。 「はぁ~…。可能性があるなとは思ってはいたけれど…ばじしゃくさんが俺の忠告を聞かなかったんでしょ。…俺が”狂人”だから」  肩を一瞬上げる哉太と、不覚にも軽く頷く幸に燕は懐中電灯を手に持ち変えてから2人を案内する。 「まあ予想は俺も刑事さんもしていたようだったしさ。もういいよ。…その代わりばじしゃくさん。刑事さんがあきなしさんのをさせたいみたいだから手伝ってあげてね?」 「汚名返上って…なんでそんなことに?」 「詳しくは刑事さんに聞いてみてよ。…その前にあきなしさんが大変なことになってるけれどね」  その言葉に幸は少し驚き、確信を抱いたかのように顔色を暗くさせた。その表情を燕は見てから少し微笑む。そして幸へあるお願いをした。 「…ひがんばなさんはあきなしさんを慰めてくれないかな。刑事さんの代わりに…さ」 「あ…うん」  幸が疑問に思いながら室内へと入れば、目を真っ赤にしたうららとその隣にいる麗永が彼女の背中を擦っていた。落ち込んでいる様子のうららを見る幸と哉太ではあったが2人の姿を見てから溜息を吐く。…特に哉太に向けて。 「やっと来ましたか…。大変でしたよ。あなた方が…いえ、違いました。…そこの、秋だというのに脇腹を晒しているサングラスの変質者が柊君の忠告を聞かなかったからでしたね」  明らかに怒っている様子の麗永に哉太は謝罪をするが…、許してはくれなさそうだ。 「悪かったって~、ごめんだって~!」 「別に怒ってなどはいませんがムカついているだけですよ。…こっちは仕事を放りだして追跡アプリと柊君の助言を頼りにうららさんの所へ来たというのに…」 「えっ、妹さんのスマホに追跡アプリ入れてたの? …麗永こわ―」 「それ以上言ったら縁も何もかも切りますけど?」 「いや~麗永お兄さんは優しいなぁ~、俺は感激しちゃったよ~!!!」  誤魔化して笑う哉太を傍目にカフェオレを飲んで落ち着いている様子のうららに幸は優しく話し掛ける。 「妹さん、大丈夫か。…やっぱり怖い目に遭った…かな。よければ俺も…聞けるから」  するとうららはもう一口カフェオレを飲んでからとある言葉を言い放つ。 「…私、愛されてなかったのかな?」 「…どうして、そう思うの?」  するとうららは自身の少し青みを帯びた銀色の髪を触る。 「お兄ちゃんと同じこの色の髪色ね、…死んじゃったお父さんとお母さんは気に入って無かったみたいなんだ。…多分、気味が悪いって思って私を黒い髪にしていたみたい」  その悲しげな声色に幸は自分の率直な意見を告げる。…というよりも、正直に心の底から思っていることである。 「俺は綺麗な髪色だと思うけど。キレイだな~って」 「…ありがとう」  するとうららは幸に目を向けて礼をしてからスマホを操作して心のチャンネルを映し出した。するとチャンネルには『逃亡!?? 超天才子役、延島 レイの実態!』というような見出しと共に様々なネットニュースが話題に取り上げられていたのだ。驚く幸にうららは静かに言う。 「私が延島 レイっていう子役なのかは分からないけれど…。お兄ちゃんもなにも言ってくれなかったけれど。ううん。お兄ちゃんは知っているだろうけれど、私が嫌な思いをさせないために言わないだけ。…本当の私は…使われるだけの人間で―」 「違うよ、それは違う!!」  幸が突然大きな声を出して周囲に視線が集まれば彼は静かに語り出す。 「妹さんは…うららちゃんは明るくて、おっちょこちょいで、でも優しくて…。でも人の気持ちを考えられる凄い子だと俺は思う。でもそれは俺だけじゃない!」  そして幸は目を見張るうららへ熱弁を続けるのだ。 「フライやジュジュちゃん、スピード…ううん。うららちゃんは俺よりも友達が多そうだろうから、その子たちだって同じ気持ちだよ!」 「…そんな。私はただの人形―」 「そんな風に自分を否定すれば自分が辛くなるだけだ!」 「…!」  さらに目を見張って驚くうららに、幸は先ほどから打って変わり優しく語りかける。 「君は人形なんかじゃないよ。…普通の人間で、ちょっと演技が上手で明るい…素敵なお兄さんを持つ女の子だ。だから自分を責めないであげなよ、な?」  幸の優しい言葉にうららは涙を零しながら嗚咽し幸が彼女を抱き締めた。そんな2人の姿を見て燕は哉太と麗永に笑いながら尋ねる。 「大切な人同士があんな風になってもいいの? もしかしたらくっついちゃうかもしれないよ」  すると哉太と麗永は決まって言い放った。 「花ちゃんは俺の一生の嫁だから平気」 「うららさんは僕が認めた相手としか結婚させないので平気です」 「…つまんない発想の転換だね~。まっいっか、…それよりも」  燕が哉太と麗永の前に出てから真剣な表情を見せる。そして彼らに尋ねるのだ。 「春夏冬兄妹は俺が見るとして…どうするの。この”狼”に対しての処罰、というか黒幕に対してどう見ようか?」  伺う様子の燕に麗永は冷静な声で発する。 「うららさんを傷つけたのは許せません。…”狼”担当の刑事としても否めませんしね。…ねぇ、場磁石君?」  そして静かに怒っている様子の麗永に哉太は肩を落とすのだ。そして宣言をする。 「今回は俺も責任あるし、麗永のねちっこ~い文句を言われるのも嫌だから手伝うよ。…妹ちゃんを悲しませた責任もあるしね~」 「当たり前ですよ」 「は~い…」  2人のやり取りに燕は軽く笑うのであった。
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加