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不幸ヤンキー、"狼"を迎え撃つ。【1】
…俺がなんとかしないと…。心美の為にも。
ある男は決意した。妻が自分が収入が無いおかげでまともな病院にも行かせられずに儚い命を落としてしまったことを。だが悔いても彼女は…心美は帰ってこない。
自分が1番いけないのは分かっていた。自分がしでかした過去のせいで妻を…心美を苦しめてしまったと。人を愛さないと決めていたのに愛してしまい、彼女との子供を作ってしまった…自分の過ちを。だが、自分の子供に罪はないのだ。
男は必死に働いた。どんなに過去の事を掘り返され、言われたとしても、理不尽な目に遭っても…子供の為に働いた。たとえどんな手を使っても、子供の為にはと汚い手を使ったものだ。
―そんな理不尽な男にとある出来事が起こったのだ。…それは”狼”であった妻との子供に入れ墨が現れたのである。右頬に大きく現れた”狼”の印が刻まれていたのだ。その子供はうずくまって耳を押さえるようにして父親に訴え掛ける。
「おとうさん…。くるしいよ。…ダレかがへんなおとをたてて…ひめい…みたいおとをたててる。…くるしんでる…ようなおとがする」
少女はその音に苦しみ泣き出してしまう。するとその音はぴたりと止んだのだ。
「あれ…とまった、なんで?」
止まった音に少女は父親…心司に伝えようとすれば、彼は少女を…心を抱いて切なげな声を出す。
「心は…お父さんを見捨てないか?」
「なにいってるの?」
父親が不思議な問い掛けをするので心は首を傾げる。すると心司は彼女へ真剣な眼差しで尋ねるのだ。
「お父さんのこと、好き?」
情けないが優しく、必死に自分を守ってくれる大切な父親の存在など幼い少女の答えにとっては明白である。
「こころは、おとうさんがだーいすき!」
笑い掛ける幼い心に心司はあることを思いついてしまった。初めはただ、今ある借金をチャラにしたかっただけだったのに。
「ねぇ、心? …お父さんの仕事を手伝って欲しいんだ」
…心の”狼”としての能力を少しだけ借りるだけだ。心美があの能力であれば…この子は恐らく…。
何かを考えている父親に娘である少女は不思議な顔をしてからこのような問い掛けをしたのだ。
「それがおわったら、こころとあそんでくれる?」
すると心司はにっこりと笑い彼女を抱き上げた。そして約束をする。
「あぁ。終わったらいっぱい遊べるぞ。…約束しよう」
「やった!」
「心が頑張ればもっともっと遊べられるぞ~!」
「こころ、おとうさんにあそんでもらえるのも、だっこされるのもだーいすき!」
にっこりと微笑む心に心司の心中では、幼い娘の心でも分からない可聴音が響いていた。
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