不幸ヤンキー、”狼”を迎え撃つ。【3】

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不幸ヤンキー、”狼”を迎え撃つ。【3】

 電車に揺られながら2人は他愛もない話をしていたのだが、その道中で幸が爆弾を投下したのである。 「フライってさ~。好きな奴いねぇの?」 「はいっ!??」  驚きで肩を揺らすフライではあるが、彼は依然としたような態度で言い放った。 「そっ、そんなのいるわけないじゃ~ん。なに言っているのさっちゃんは~!」 「いるんだな」 「だからいないってば!!! まったく、さっちゃんは…」  電車を降りて改札を出て燕の洋館へと向かう2人だがフライはわざと話を逸らす。この話題はあまりしたく無いようだが、幸は気になって仕方がない様子だ。 「そんなことよりも、場磁石さんも来るのかな~。…でもあの人のことだから来るよね~…」 「それで相手は?」 「だから、僕の話聞いてる!??」  燕宅に向かいながら話していく幸はニヤつきながら柄にもなくフライの肩に肘をつつく。顔を紅潮させてはぐらかすフライがおかしいのか、いつも自分をイジッてくるからなのか。問い詰めていくのだ。 「そんで誰なんだよ。…まさか妹さんじゃ―」 「…なんで分かったの?」 「…えっ?」  スピードかと思えば意中の相手がうららだと分かり唖然とする幸に、フライは顔を真っ赤にしている。想定外であったので幸は訊き返すのだが…。 「…お前、好きな相手はスピードじゃねぇの?」 「なんでそこでスピード君が出てくるの?」  不思議な顔をするフライに幸も唖然とする。そんな彼にフライは当然のように言い放った。 「好きだけど後輩みたいなものだけだよ。スピード君は」  あっさりとした回答に驚く幸ではあるが、フライがどうしてうららに惚れたのかを聞きたかった。だから尋ねてみることにしたのである。 「なんで…その。妹さんに惚れたんだよ。…なんかきっかけとかあったのか?」  するとフライは少し考え込み言葉を述べていく。それはこの前あった出来事であった。 「う~ん…。もともと初めて会った時から印象が良かったというか。…さっちゃんや僕の容姿見ても偏見な目もしなかったし、話し掛けてくれたし。…でも1番はうららさんが文化祭の騒動でピンチになって地面に落ちそうになって…助けた時、かな」 「…なんでそれで?」  するとフライは少し顔を赤くして言い放つ。 「軽かったんだよ。…軽くて、脚が長くて、銀色の髪色が…まるで使みたいだったから」  顔を赤く染め上げるフライではあるが幸は唖然としてから正直な意見を伝えた。 「…お前、よくそんな歯の浮きそうな…あっ、これ、ちょうど勉強した所だ」 「勉強の確認で僕を使わないでよ、ったく!」  そしてフライは拳を握りしめ、気合を入れた。彼の意中の相手がまさかうららだとは幸は思いも依らなかったのに。 「まぁでも、うららさんも燕君や春夏冬さん以外なら1人だろうし、ちょっとはアピールしておかないと!」 「あ…あぁ」  この時、幸は少しスピードが可哀想だなと思った反面、それでも親友の恋を応援しようと思ってはいたのだが…2人は知らない。うららには恋人など要らぬほど固い絆で結ばれた存在が居るのであった。  燕宅に着いて古びたチャイムを鳴らせばとんでもない音が聞こえてきた。  ―――ギンゴンガガァンゴーンー!!!! 「うるさっ、なんだこの音!?」  幸が耳を塞いで驚けば同じ動作をフライもする。2人とも圧巻されている様子で鳴り止んだチャイムから解き放たれると、フライが呟いた。 「こんなにうるさかったんだ…。ここのチャイム」 「うるさすぎるだろ…。よく近所迷惑になんねぇな…」  なんとなく関心を持っては燕が出てくるのを待っていると、中から出てきたのは鮮やかな金髪の髪を三つ編みで結った青年がこちらを見たのだ。麗永や燕では無い予想外の人物に幸とフライは驚くと青年は疑問を浮かべて尋ねた。 「…えっと、あんたら誰? の知り合い?」  少し不良っぽい感じであるが、朱色の制服を着こなしている青年に2人は誰なのだろうと思いながらも自己紹介をする。 「あっ…。えっと。…俺は彼岸花 幸。こっちはフライ…じゃなくて―」 「久遠 勇翔です。フライっていうあだ名で呼ばれています」 「あ…どうもご丁寧に…って、ん?」  2人の名前を聞いて自分の中で確認をしたのだろう。金髪の青年は少し驚いて軽く笑い掛けた。 「あぁ! うららが言ってた人たちか~。俺は、琴平(ことひら) 音刃(おとは)っていう者だ。…あの手が掛かるうららのでさ~、よろしくな~」 「幼馴染…?」  そういえばそんなことを言っていたなと幸が思えば、フライは音刃に話し掛けている。 「それで、うららさんは…大丈夫なんですか?」  フライの心配をする面持ちに彼はまた笑って安心させるように言い放つ。 「うららは今の所平気だ。…燕君がちょうどコーヒー淹れてくれてたんだよ~。クッキーもあるし!」  見た目は不良のような容貌をしているが、好青年で気軽に話し掛けられそうだなと幸は思った。…という幸だって自分の顔が怖く、不良だと言われているんで人のことは言えぬが。 「まあまあ、あがってくれれば分かるからさ」 「あ、ありがとう…」 「おう。サンキューな」  にっこりと微笑む音刃にフライ共に幸は好印象を抱いた。
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