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不幸ヤンキー、”狼”を迎え撃つ。【終】
その数日後。約束の場にて、普段とは違いスーツに眼鏡を掛けている哉太に制服を着ている幸、そしてスーツ姿の麗永がとあるビルを尋ねて来た。
―3人の姿を見て心のマネージャーである心司が苦々しげな表情を見せている。そしてニヒルな顔を見せる哉太に向けて言い放つのだ。
「あなたですか…。自分が田中 皐月だと、本物だと言っているお方は?」
「もちろんですよ~。俺が本物の田中 皐月です」
挑発するような微笑みに心司は苦笑をした。
「この前いらっしゃった方と同じではないですかね~。…心にこんな脅迫文でも送りつけておいて…」
心司が見せびらかしてきたのは古風にも手紙で送りつけられてありこのような内容であった。
『この前会った田中 皐月もとい場磁石 哉太は本物ではない。これは明らかに詐欺である。世間に知られたくなければ、”狼”同士の勝負をしよう。―本物の田中 皐月より―』
「しかもこれと同時に撫子さんって方からにも連絡を受けましてね。…やめて頂けませんか。営業妨害ですよ?」
深く溜息を吐き心司は3人を相手にしようともしない。
だが状況が一変した。不意に扉が開き右頬に狼の入れ墨を持った少女…心が現れたのである。彼女は哉太を見てかなり驚いた顔をしたのだ。そして声を震わせて言う。
「あなたは…違う。あなたは…この前の人じゃない」
急に狼狽をする心に心司は首を傾げる。そして彼女へ問い掛けるのだ。
「…なにを言っているんだ。…この人達は心の揚げ足を取ろうとして―」
「おとうさん、この人はこの前の人とは違う。…”狼”の人だ」
「…なにぃっ?」
心の発言に心司が驚けば哉太は驚愕をしている少女…心に目線を合わせた。そして問い掛ける。
「このおっさんは俺を見抜けなかったのに君はどうして見抜けたのかな?」
「そ…それは…」
「…ひょっとして、俺の心でも読んだ…とか?」
哉太に見透かされたように言われた心は少し顔をビクつかせてから冷静に言葉を述べる。
「…なにを言っているんですか。私は過去が見えるだけ。あなたの過去が見えただけです」
彼女なりに平然を装うとしているのだが、顔はビクつかせていた。だから哉太は確信を得たようにある提案を設けたのである。
「ふぅ~ん。じゃあさ、賭けでもしようか?」
「…賭け?」
哉太の合図とともに麗永と幸が心司に張り付き万全の対策をする。さらには麗永が持ってきた小型のテレビカメラで心と自身を撮影させたのだ。なにが起こるのかと心配をする幸に哉太は置かれている椅子に座る。そして驚いている様子の心にも席に座るように促した。
「心ちゃんも座りなよ。…あぁ。このカメラは麗永がね、君が過去を暴いてくれたうららちゃんの為に買った奴なんだと」
「そう…ですか」
「まぁ、なにに使われるのかは俺は知らないけど~」
そして呑気な様子の哉太に心は苦虫を噛み潰したような表情で彼を見つめては座る。するとこんな言葉を掛けたのだ。
「…私が作ってしまった借りを返す為にこちらへ来たんですね。…大人のくせにやることが幼稚ですね」
嫌味を孕んだ言い方だが哉太はそんなことでは臆しない。だから彼は呑気な様子で彼女へ笑い掛けるのだ。
「そうかもね~。でも今回は違う。…これは君と君のお父さん、そして俺らの大義名分が掛かっている大勝負だよ」
紅の瞳で心を離さないように捕える。だが少女も哉太を負けずに睨みつけて彼の手を取ろうとした。すると哉太はカメラの電源を入れたのだ。電源が入ったカメラで麗永が机の上でパソコンを操作すれば哉太はこのような言葉を心に掛ける。
「俺の心理もそうだけどさ…。ところで君は自分のお父さんのことをどう思っている?」
「…はい?」
突然の疑問に心も疑問を返したくなる中で哉太は笑みを絶やさずにいる。そして再度問い掛けた。
「君の、…心ちゃんはお父さんのことをどう思っているのかって聞いているの。…あっ。ちなみにだけどこれ、生配信やっているからね~」
その発言に心司が驚愕し怒鳴るような声を上げるが哉太は屈しない。
「なんだと!? 誰の許可を得て―」
「まぁまぁ。心ちゃんのおとーさんもそんなにカッカしないでよ~。…んで、どう思っているの?」
「そ…それは…」
生配信にて着々と観客が来る中で心はなぜか次の言葉を発せずにいた。
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