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【閑話休題】不幸ヤンキー、”狼”に真相を話す。
哉太の自宅にて幸は勉強を教えてもらっていた。最近の幸はバイトを少なくして勉学に励みフライやジュジュに教えてもらっているのだが…。ジュジュはともかくフライに敵対心を抱いている哉太が自ら幸に教えたいと志願をしてきたのだ。だから哉太に幸は教えてもらっているのだが、さすがはアルバイト教師であったが教師である。教え方は見事なものであった。だから幸は普段よりも勉強が捗っているが…理系科目は苦手としている様子である。
だから苦悶している様子の幸に哉太は微笑んでは休憩の合図をした。
「よ~し、休憩にしようか~。お疲れ~!」
「…全然分かんねぇ。やっぱり俺、バカだから…」
頭を抱え数学Ⅱの勉強を中断する幸に哉太は彼の頭を撫でる。幸の赤い髪色は男の割には艶やかでシルクなような肌触りなのを哉太だけが知っている。だが大きくて程よい冷たさを持つ手を持っているのを知っているのは幸だけだ。
そんな哉太の優しい手に撫でられ気持ち良さを感じる幸へ彼は解説を施した。
「まあ、この問題は数学Ⅰがちゃんと分かっていないと解けない問題だからね~。基礎固めが大事ってことよ?」
「…うん。そっか…」
「つまり~、エネルギーが必要だということで! 今からエッチをしま―」
「普通に休憩するからな?」
「…花ちゃんのイジワル」
哉太のセクハラ行為をもとい言動にも負けず、まるで自分の家のようにコーヒーを着々と淹れていく幸に哉太はふと思いついた言葉を告げた。…それは今まで幸がよく口にしていた言葉である。
「そういえばだけどさ~。いっつも思ってたんだけど、花ちゃんってさ、よくエッチする時にも『捨てないで』『嫌わないで』って言うの…どうして?」
間延びした哉太の問いに幸がピタリと止まる。すると彼は思い当たる節があるようだが言えずにいるというニュアンスを見せるような顔をしたのだ。しかしその表情は悲哀を帯びていたので哉太は慌てて言葉を訂正しようとした。だがしかし…。
「っあ、今の無し!!」
「あぁ…全然そういう訳では…」
「聞かなかったことにして―」
「…意識してなかったから分かんなかった。でも大丈夫だからさ。う~ん…なんでだろう?」
―俺、捨てられたからかな。…自分の両親に。
「…っえ、…捨てられた?」
衝撃的な言葉ではあるが幸は哉太にもコーヒーを淹れながら話していく。
「ほら。俺、じいちゃんとばあちゃんに育てられたって言っただろ?」
「うん。聞いているけれど…」
すると幸がまた寂しそうな表情を見せたのだ。だが哉太は、どうして彼がそのような表情を見せる理由が分かるのである。幸の寂しげな表情と悲しげな言葉と共に。
「…俺さ、怖くて聞けなかったんだよ。…『どうして自分にはお父さんもお母さんも居ないの?』って。そんでガキなりに思ったんだよな。…自分は産まれなくていい。…要らない存在なんだって」
悲しげな言葉を紡ぎながら話していく幸に哉太は言葉を失ってしまった。しかし沈黙はさながらでは無く、コーヒーを淹れ終えると幸はにっこりと笑っているのだ。不思議に思う哉太に幸は笑う。
「でも、最近は思わなくなったんだ。…俺のことを必要としてくれる人が居て、哉太さんが居て、俺は幸せだ」
「さち…」
「毎日が幸せだな~って思えるんだ」
「…そっか」
すると幸は自分がどうして最近勉学に励むようになった理由を話し始めるのだ。それは単純明快であるがとてつもないほどの嬉しい言葉であったのだ。
「だから俺…哉太さんとずっと一緒に居たい。哉太さんと釣り合えるぐらいの人間になりたい!」
「幸……」
「…難しいことだとは分かっているけれど、その為に勉強を―」
―――チュッ。
言葉を続けようとすれば哉太に軽いキスをされる。驚く幸ではあるが哉太はキスをしてから抱き締めた。強く抱く哉太に戸惑う幸ではあるが、彼の身長よりも幾分高い彼は少し屈んで囁くのである。
「俺は幸が…ここに居て、生きてるだけで嬉しいから」
「哉太さん、嬉しい…」
顔を紅潮させ素直な反応を見せる幸に哉太はもう少し屈んで目線を合わせた。…赤く煌めいている優しい輝きに幸は魅せられる。そんな彼に哉太は微笑んだ。
「だから幸はさ~もっと自分に自身を持ってよ。…そんな悲しい事なんて忘れるくらいさ。…っね?」
「かな…た…さん」
すると2人は見つめあい深い口づけをする。
―――クチュゥ…。クチュリ…。プチュゥ…。
息を忘れるほどのキスに幸が酔ってしまえば哉太は軽い幸の身体を抱き上げていた。それに幸は驚き哉太へ問い掛けるのだ。
「なにするっ、の?」
「なにって…エネルギー補充の為の運動」
したり顔をして笑う哉太に幸は察すれば、観念したように溜息を吐いてしまう。…どうしてこんな男に惚れて、かつ恋人となり…釣り合いたいと願うのか、自分でもあからなくなってしまう。
―でもそれでも良かった。
「もういいや…」
言動にかなり矛盾が生じてはいるが幸は哉太に負けて大人しく姫様抱っこをされていた。…それは淹れたてのコーヒーの香りが渋くなるくらい長く運動が続けられたそうであった。
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