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不幸ヤンキー、”狼”を憐れむ。【1】
設置されているカメラにて優雅に微笑んでいる哉太と緊張した面持ちの心が”狼”争いをする。一体どんな対決になるのか幸は肝を冷やしていた。
―――ヴヴゥゥン…!
「あ…やば…」
そんな中で幸は自身のスマホの着信が鳴っているのに気づき止めようとするが、哉太が優しく言い放つ。
「大丈夫だよ、花ちゃん。…出てあげて。謎解きに必要な人物だからさ」
「…えっ?」
どういうことなのかが分かっていない幸に哉太はこのような指示も出す。まるで心のトリックが分かっている言動である感じがした。
「スピーカーでお願い」
「あ…あぁ」
スマホの画面には『フライ』と表示されている。犬猿の中である哉太がフライの着信を許すのは珍しいなと考えつつ幸はスピーカーにしてから電話に出ると…。
「もしもし。フライか?」
『あ…。さっちゃん? 春夏冬さんからの連絡と言いたいことがあって…。…ちょっと驚いたことがあったというか』
「…何があったんだ?」
するとフライは衝撃的な言葉を発したのだ。
『…僕のスマホさ。ハッキングされてたみたいなの。…しかも結構、高度なハッキングをされていたらしくて。春夏冬さんにスマホを預かってもらって警察が調べて分かったことなんだけど…』
「…ハッキング?」
―ハッキングとは、他人の情報端末…スマホやパソコンから不正に情報を抜き出す行為を指す。多くはクレジットカードの抜き出しや個人情報の漏洩などの危険極まりない行為だ。フライの言葉に驚愕をした幸は心配の念を抱く。
「大丈夫かよ、それ…。じゃあやっぱり情報とか抜かれていたとか?」
『うん。まぁ僕のスマホの情報が抜き取られてたみたい。良かったよ~。お金とか引き取られなくてさ~。でも…なんでだろうな~って』
フライの発言に心がビクつけば哉太はとある仮説を立てる。
「今回はあの白髪のチビ助だったけれど…。恐らく狙われていたのも彼自身だと俺は思う。ホヅミの件で有名だし容姿も分かりやすいし、しかも後天的な”狼”としても能力が制御できているから、暴れることは可能性として低い。だから君は安心して過去が見やすいしね」
「…つまり、私は安心して過去が見られた。…ということになりますね?」
「それは違うね」
心の苦しい言い訳に哉太は異議を唱え、麗永から貰った捜査報告から仮説を立て直した。それはこういう内容であったのだ。
「君のお父さんはIT系にかなり強いと伺っているし、携帯会社にも勤めていたらしいね~。そしたら、君のお父さんがもやし…じゃなくてフライ君の携帯を乗っ取って検索履歴から広告を貼ったり、見ることも出来たんじゃないかな?」
心の顔が青ざめていくが彼女だって簡単に負けるわけにはいかないのだ。
「…それはただの仮説にすぎません。どこにそんな証拠が―」
「だからフライ君のスマホから調べ上げたんだよ。…そしたら君のお父さんが彼のスマホをハッキングしていることが分かった」
哉太の言葉に詰まる心はそれでも非を認めない。逆に知らないと言い出してきたのだ。
「……それは私には知らないことです」
「たとえ知らなくても俺や麗永は知っているよ。…さて」
―君はどう反論する?
小さな少女にも容赦しない哉太ではあるが彼女は息を吐いてから手を差し出した。なにかと思う哉太に心は勝負を仕掛ける。
「私の過去視が事実であるのを今から教えましょう」
「そうきたのね~…」
「お父さん…いえ、父がパソコンを弄らずにあなたのことを探れば…真実を導けばよろしいですよね?」
焦ったような顔をする心に哉太は一旦なにかを考え、思いついたようだ。
―――パンッ!
なぜか手を1回叩き、右手を軽く捻ってから手を差し出した。謎の行動をする哉太ではあるが心は余裕が無い様子でありそのことには触れずに彼の手を握る。…すると異変が起きたのだ。
「この…痛みは…なんだ?!!」
1つは心司が頭の痛みを訴えて床にひれ伏したこと。そしてもう1つは…。
「…お父さんの、声が…聞こえない」
驚いてなにが起きてるのか分かっていない様子の心に哉太は悪戯に笑った。
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