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不幸ヤンキー、”狼”を憐れむ。【2】
突然の激痛に心司が蹲り床にひれ伏せば、心は驚いて彼の元へと駆け寄った。そして哉太を強く睨んで言い放つ。
「あなた、お父さんに何したの?」
「君に関係したことがこうなったと思うよ?」
「…お父さんは関係ない!!!」
激しく怒る心に哉太は何かを確信した。そしてこの状態になったタネ明かしをするのだ。
「…俺は君が発した脳波…まぁ電気信号って言うのかな~。…それを磁場にして変換させて発信させただけだけど?」
「…磁場?」
疑問を浮かべる心ではあったが次第に顔が青ざめていく。幼いながらも哉太の言っている言葉が分かったようだ。そんな彼女に哉太は補足し、説明を施した。
「うん。君に鎌を掛けたんだよね~。…君が誰かに頼って思う心…”テレパシー”で君のお父さんに助けを請うのかな~って予測してね。…あぁでも、一応俺も自分で磁力を操ることはできるけど…今回は使用してないよ。…なんなら君が俺の心を覗いでみれば分かるだろうし」
余裕そうな表情を見せて哉太が言ってしまえば心は意を決したように言葉を放つ。その表情は人形ではなく、初めて人間味を帯びた表情だと幸は思った。
「……お父さんのこの痛みを取り除くには、助けるにはどうすれば良いんですか。…私が罪を償えば―」
「君じゃない。償うのは君のお父さんだよ。…君のお父さんが自分の罪を認めない限り、君がお父さんを説得しない限り、その激痛は永遠に続く」
哉太の冷たい言葉に幸が声をかけようとすれば今度は蹲っている心司が心に手を伸ばし…泣き叫ぶのだ。
「こ…こころぉ…。私を…この痛みから、私を救ってくれぇ…。たの…む」
「お父さん…」
心が悲しそうな表情を見せて父親の頭に手を添える。すると彼女の右頬の”狼”が消えていくのだ。その献身的な姿を見て幸は驚きで少女に声を掛けてしまう。
「…君は、負けたことを認めるの?」
「…えぇ」
「…お父さんの為に…か」
幸の問い掛けに心は少し微笑んで言葉を紡ぐのだ。
「だって…お父さんが、大好きだから。…お父さんが苦しむ姿をこれ以上見たくないから」
「……」
何も言えない幸に麗永はパソコンを操作してから床にひれ伏す心司に向けて言い放った。
「囲戸 心司。あなたを少女虐待、及び恐喝または詐欺に加担させたとして…逮捕します」
冷たく放たれる刑事の言葉と手錠によって舞台の幕は閉じた。
とある1室にて青年はWe Tubueの視聴者の反応を見た。するとその場に居た2人の少女を見る。1人は樹木に絡まれて眠っている長髪の少女に。そしてもう1人は…。
「見てよジュジュ。かなちゃんのおかげでみんな”狼”の存在に恐怖して…尊敬の念を込めているね~。…さすがはかなちゃん。俺も負けてられないな~」
にこりと笑う右脚に大きな”狼”を持つ青年にジュジュもにっこりと笑った。幸やフライと一緒に居る時と同様な笑みを見せている。そんな彼女は青年に向けて言葉を放つ。
「花月様も素晴らしい方ですよ。…だって私を作ってくれたんですから」
謎の言葉を放つジュジュではあるが花月は悪戯に微笑んだ。…まるで自分の娘を見るような視線で。
「作ったのは俺の妹だけどね~。…でもお前の性格を作ったのは―」
そして樹木に絡まっている少女を一瞥し真剣な表情を見せる。そんな彼にじジュジュは彼に駆け寄りこんな言葉も紡ぐのだ。
―それはあまりにも衝撃的な言葉であった。
「私達を作って言葉と心をくれたのは花月様です。…”ジュジュ”という人形達を作ってくれたのは、花月様のおかげです」
そして人形という割には人間らしく笑うジュジュに花月はほくそ笑んだ。
「そうだね~。…やっぱりお前は出来の良い”ジュジュ”…いや、10番だな」
花月と同じく右脚に大きく”ZZ-10”と彫られているジュジュは哀しげな笑みを浮かべて眠っている少女に声を掛ける。
「あなたを助けますから。…もう1人のマスター。絶対に…」
そして彼女の言葉に反応するように花月も言い放つ。
「大丈夫。…花音は俺が助けるから。…どんな手を使っても」
花音と呼ばれた少女は樹々に絡まれて眠ったままだった。
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