不幸ヤンキー、”狼”を憐れむ。【終】

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不幸ヤンキー、”狼”を憐れむ。【終】

 世間が心へと非難が集中し、ネットニュースへとなった。  ―しかしそれは延島 レイことうららの話題もそうである。    麗永が自身のカメラを設置したのち取材班が現場へと押し掛ければ、うららは緊張した面持ちで刑事から警部補へと昇格した兄の麗永と共に質疑応答をするのだ。 「延島 レイさん、今のお気持ちは?」 「大事故で脳に損傷が起こったというのは本当ですか?」 「”狼”と呼ばれる能力者から過去を聞かされてどう思いましたか?」  次々と取材班が質問をしていく中で麗永はマイクを手に取って応答する。 「彼女は今、自身の過去の自分とは縁を切った状態です。だから今のレイさん…いえ、うららさんに聞いたとしても彼女は何も答えることはできません。今回の件も彼女が過去を知りたいという切望で引き起こさせてしまいましたが…この子も覚悟が出来たようです」 「覚悟とは…、一体?」  1人の記者が問い掛ければ兄からマイクを受け取ったうららは少し大きめな声を出して言い放った。 「私自身、自分が女優だったことは兄からしか聞いていませんし、覚えてもいません。…ですが、今は学業にも努めたいですし、やりたいことが沢山あります。…でも、皆さんが望むと言うのならば、もう一度やり直して女優業をやってみたいです」 「つまり、女優業は再開するという意向でよろしいのですか?」  するとうららは少し微笑んだ。その笑みはまだ確信は持てぬが決まったというような覚悟を抱かせる。…少し間を置いて、そして覚悟を決めたようだ。 「今は少し休んでからですが…。女優業はいつかやらせていただきたいなと思います。…延島 レイとして新たな門出が迎えるように」  そして麗永にマイクを戻してうららは背筋をまっすぐにした。  幸の家にて。We Tubueにて生配信されている延島 レイのチャンネルにて幸と哉太はスマホを見ていた。彼らはうららを応援するかのような声を上げる。安堵もしていた様子であった。 「妹さん。なんか吹っ切れたような顔してんな~。…良かったな!」  うららの元気な様子に安心する幸ではあったが哉太は違った反応を見せる。 「ねぇ花ちゃん。俺さ、かなりひどい事したよね」 「…どうしたんだよいきなり。妹さんのこと応援してるくせに?」 「違うよ…。そうじゃない」 「じゃあ誰のことを言っているの?」  すると哉太は後ろめたさを感じさせるような言葉を紡いだ。 「…心ちゃんのこと」  そう。哉太は”狼争い”と言えども心を、幼い少女の人生を台無しにしてしまったというように感じているのだ。心を傷付け、さらには少傷口をえぐってしまったような自身のやり方に哉太は後悔の念を抱いている様子であった。  そんな彼ではあったが幸はスマホを見るのを止めて哀しそうな表情を見せる哉太を優しく抱いたのだ。 「…花ちゃん?」  抱き着かれた哉太は驚くものの、そんな彼に幸は思い出したように述べていく。 「やっぱり、哉太さんは変わったよ。…初めは”狼”相手なら平気で殺そうとしてたのに?」  だがそれでも哉太は自身がしでかした最低な行為を忘れられない。それぐらい酷いことをしてしまったと本気で思っているからだ。だから哉太は幸の小柄な背中に手を回しつつも反論を述べる。 「それは…その。他の”狼”は身勝手で心ちゃんみたいにお父さん想いの良い子じゃなかったからで―」 「それでも変わったよ。…今は優しい人間になったよ。俺はもっと哉太さんのこと…好きになったよ?」  普段とは違いデレが多めの幸に哉太は驚いているがそれでも幸は言葉を綴る。心の代弁をするように。哉太を守るように。 「あの子は…心ちゃんは救われたかったんじゃないかな。お父さんがたとえ好きだとしても、皆を騙している自分が許せなかったんじゃないかなって俺は思う」 「…そうなのかな。俺には、俺が心ちゃんを傷付けてしまったような気がして…」  普段は自信に満ち溢れて飄々としている哉太に、幸は彼の目線に合わせた。普段はギラギラと輝く真紅の瞳は弱っている気がして、そんな彼を助けたいと願うから彼は自分の意見を率直に言い放った。 「俺は違うと思う。でもそう思っている人が居ても良いんじゃないのか?」 「それは…俺や花ちゃんの意見だし、俺は…その…」  歯切れの悪い哉太に幸はまた彼を抱き締めて耳元で囁くのだ。 「哉太さんがたとえ心ちゃんを傷付けたと言うのなら、俺も哉太さんと一緒に謝るよ。だから大丈夫」  すると哉太は一瞬固まったのかと思えば、クスクスと笑い出した。何事かと思い幸は顔を見上げると…そこには普段の哉太がそこに居た。彼は軽く笑っては幸へにっこりと微笑んだのだ。 「幸がいつもこんなに優しくしてくれてたら、俺はいっつも自信たっぷりでいられるのになぁ~」  大男の可愛らしいお願いに幸はなぜか鼓動を鳴らせるが、すぐに意地悪な回答をしてしまう。 「ば~か。…普段から調子乗られたら困るっての」 「え~…嬉しいのに~」 「うっさい、ばか」  笑いあう2人が互いを見つめてキスをしようとした…その時。玄関のチャイムが鳴った。  ―――ピンポーン! 「誰だよ~、こんな夜中に~。せっかく幸と良い雰囲気になったのに~!」  甘い雰囲気をぶち壊されてズッコケて苛立つ哉太を笑いながら幸が出れば…驚きの人物がそこに居た。  ”狼”を失って今や普通の少女となった囲戸 心が夜中なのにも関わらず、幸の元を訪れたのだ。どうしてこの場所を知っているのも不思議に思ったのだが、その前に彼女がなぜこの場所へ訪れたのかさえも驚愕をしてしまう。だから問い掛けてしまった。 「…どうして、俺の家に?」  すると少女は真剣な顔をして頭を下げて言い放つ。それはとつぜんの出来事であった。 「…お願いします。…私を置いてください」 「…えっ?」  幸は驚くことしか出来なかった。彼は知らない。  ―ここから哉太と幸、そして心の日々が始まるという事実を。
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