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「1日ぶり!今日も会いに来たよ~」
「毎日もお見舞いに来てくれてありがとう!」
青の病衣を纏った少女は口角を上げる。
私が入室する前から握りしめていたウサギのぬいぐるみ。くすみを帯びたそれを優しくベットの傍らに置く。
その様子に安堵して、私はベットの上の彼女と向き合う形で丸椅子に腰かける。背負っていた大きなリュックサックの中から紙袋を取り出した。
その音に反応して、少女は胸の前に両手でお椀を作って待っている。
ソーラーで左右に揺れるおもちゃのように、少女は上半身を一定のリズムで揺らして待ちわびている。
「はい、約束のものをどうぞ」
「わぁー!ありがとうね」
少女は袋の中から雑に人形を取り出した。
黒髪ロングで黒のドレスに身を包んだモデル体型の着せ替え人形。
自動車事故以前、少女が母親に欲しいとねだった誕生日プレゼントだ。
少女が1週間前に「誕生日プレゼントはま~だ~?」と何気に言った発言に、私は焦燥感に駆られた。
私の子じゃないのに、少女の欲しいものなんてわからなかったから。
毎日少女の家を何かの手がかりがないかと探った。
はっきり言って、私は正解を導き出すことを半ばあきらめていた。
少女から以前にお願いされたことを親の立場で問い直すことは疑いに繋がる。
こんなヒントのない問題は正解がないといっても過言ではなかった。
けれど、私が欲した答えは思いもよらぬものに記されていた。
少女の母の家計簿だ。
7月20日
誕生日プレゼント(2023年9月13日発売プリンセス着せ替え人形:黒髪特)
支出:5800円(税込み)
なぜ?疑問が正解を見つけたことに対する喜びを霧散させた。
商品は家計簿に記されている。だが、約束の日に渡す品が見当たらなかったからだ。どうして発売日が先の商品を家計簿につけたのか。どうして発売日を1か月以上過ぎた商品が見当たらないのか。
結局、私は同一商品と思われる人形を購入して、少女に手渡すことにした。
今、少女が喜んでいる姿を見るに、私は間違っていなかったのだろう。
命の危機に関わる火事場から脱出したような達成感が湧き上がる。
それとともに覚悟を決めた。
私が少女の笑顔を守れるなら、母親としての偽りの仮面を被り続けよう。
悲惨な事故で母を亡くした少女のため。
そして、瞳の色がだけが違う双子の姉のため。
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