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前編:バージンOLの前にヴァンパイアが舞い降りる
少し雲がかった満月が明るい夜だった。神楽坂リコは会社の飲み会から帰る途中だった。
「あーあ。何だか柏木先輩への想いも冷めちゃったし、毎日の仕事に張りが無いわー」
少々酔って火照った体を覚ますには、十月半ばの秋風は気持ちが良かった。最近失恋……というか、好きだった相手に蛙化現象を起こし、恋心が冷めてしまったリコにとっては、想い人だった柏木隼人も出席する社の飲み会は苦痛でしかなかった。
「どこかに良い相手転がってないかしら。私のバージンを委ねられる素敵な王子様が……」
その時だった。リコの前に黒い人影が舞い降りて来た。立ち塞がったのではない、舞い降りて来たのだ。
「お嬢さん……月夜に私と永遠のランデブーと洒落込みませんか?」
「は?」
リコの目の前には、黒いマントにフリルの付いた白ブラウス、ぴちぴちの黒いスキニーを履いた不審者が立っていた。
「何よ……変態か……」
リコは「どうせいつもの不審者よ」とでも言わんばかりに溜息を付くと、男を無視して足早に先を急ごうとした。
「ちょっと待ったお嬢さん! 浮かない顔をしているね。私の魅惑の口付けでその憂鬱、晴らして差し上げよう」
リコは「しつこい変質者だ」と思いつつ男を見た。すると、その顔は日本人離れした堀の深い、まるでギリシャ彫刻のように整った顔立ちをしていた。
「え、イケメンじゃん」
リコは、少しくらいならこの男の話を聞いても良いんじゃないかと思った。
「何よ、さっきから永遠のランデブーだの魅惑の口付けだの。ヤリたきゃヤリたいってはっきり言いなさいよ!」
「ちょっと待って!? そうじゃないんだよ! 俺の恰好見て分からない!? 俺、吸血鬼よ!」
「はぁぁぁぁ!!??」
リコは内心ドン引きをしていた。この不審者は、事もあろうか近代日本で自分をヴァンパイアだと言い張っている。
「何が吸血鬼よ。そんなもんいるわけないじゃない!」
「いるんだな、それが。俺がその証拠。何ならお嬢さんの血を吸って俺の仲間にしたって良いんだぜ」
「最初からそのつもりなんじゃないの?」
「いや、俺ただ空腹で処女の血が吸いたくてさ」
その瞬間、リコの目つきが変わった。
「今……処女って言った……? あんた……私の最大の地雷踏んだわね!?」
「ひっ! 何急に! 怖いんだけどその目! とにかく何でも良いから血を吸わせてくれよ!」
リコはふと我に返って考えた。
「(私……ひとつの恋が終わってから心が空っぽで。親友の沙美は男なんて星の数ほどいるって言ってたけど、私はもう運命の相手を探すのに疲れてしまったわ……)」
リコは決意した。
「OK。血を吸って良いわよ。ただしひとつ条件がある」
「わーい! ありがと! で、条件って何!?」
「それはね……」
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