AiBS研究所

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AiBS研究所

「―――で、眠り姫ならぬ『Q5013』の容態は?」 「今のところ安定しているが、信号に反応しないのは相変わらずだ」 「だけど『Q5013』の協力のおかげで研究が進んで助かったな。方針が確立した時点で急に倒れられたのは驚いたがな」 「SD(セカンド・ブレイン)もまたひと悶着ありそうだな」 「学習・記憶力向上のために脳に『第二の脳』としてICチップを搭載したら、脳本体の働きが悪くなって委縮していったなんて、笑えんな」 「体外妊娠産まれだと、どうも知能レベルが低かったからな。彼ら大体SD搭載済みだろ?来週から対象者全員呼び出して精密検査だとさ」 「マジでか。検査、俺らに回って来るのかぁ?俺、先月残業時間150時間超えているぞ」 「もうちょっと人材増やしてくれないかねぇ。出来れば優秀で、AiBSに骨を(うず)めてもいいって言ってくれるような奴」 「……だけど優秀だけじゃなくて、人の心がある奴が良いな。これ以上研究の犠牲者が増えないようにさ」  もっともだ、と笑いながら真っ白な廊下を歩いていく研究員3人。  その壁の向こう側で、静かに眠る小さな少女。  私に何かあった時、彼へ渡して欲しいと両親に手紙を託した。  私のような境遇の人の人生を少しでも守れるようにと、AiBS研究所へ自らの脳を、身体を差し出し、研究に協力した。  だけど、いざ死が迫ってきていることがわかると逃げ出したくなった。  もう一度、もう一度でいいから彼に会いたい。  私は無意識のうちに休眠状態に入った。  次に目が覚めるまでに、彼が私に会いに来てくれることを夢見ながら…。 (おしまい)
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