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「高校は…中退かな。本当は私も卒業までは居たかったけど、もう行かなきゃいけなくて」
「行かなきゃいけないって…何でだよ」
目の前の歩瑠夏の姿に動揺していた事は忘れて、今はAiBS研究所に歩瑠夏を取られてしまうような気分でムッとしてしまった。
「研究所が……私の脳を求めているの」
あぁ、歩瑠夏は難関高校の首位クラスの学生だから。
最新型の『アイ・Bスーツ』に昔から携わっている歩瑠夏なら、きっと即戦力となるのだろう。
「研究所は遠いのか?時々は会えるんだろう?」
歩瑠夏は静かに首を振った。
「研究所の場所は言えない。会う事も…多分無理だと思う」
「そんな……だったら、俺がAiBS研究所へ就職する!簡単に就職できるとは思っていないけど、死に物狂いで勉強して、大学も卒業して……そうしたら、会えるよな?会ってくれるよな」
誰もが憧れるAiBS研究所及びT3社への就職は、研究員、営業職はおろか事務職でも難しい。
「……うん、待っているね」
期待をしていない、という表情なのだろうか。
歩瑠夏は再び涙を流し、消えそうな声で呟いた。
「歩瑠夏、もう一度抱きしめていいか?」
俺は歩瑠夏の涙を拭って、彼女の顔を覗き込んだ。
「……うん、じゃあ待って、『アイ・Bスーツ』を……」
小さな歩瑠夏が纏った服を脱ごうとするので、俺はそれを静止する。
「本当の歩瑠夏を抱きしめたい」
歩瑠夏は驚いたのか両目を見開き、一瞬言葉を詰まらせたが、
「いいよ、でもそっとね。骨が弱いから」と少し嬉しそうな声で頷いた。
俺はゆっくり彼女の背中に手を回し、そっと抱きしめる。
頬が、彼女の頭部に当たった。
体温は感じたが、硬く、樹木の表面のようにゴワついていた。
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