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ありがとう
歩瑠夏の親から連絡が来たのは、歩瑠夏と別れて1年も経たない高校3年生の秋だった。
『歩瑠夏は亡くなりました。貴方宛ての手紙を預かっているので、研究所の検閲が済み次第お送りします』
俺の手元に手紙が届いた時には、それから1ヶ月も経過していた。
幾人もの手に渡ってチェックをしたのか、便箋はややくたびれていた。
『武蘭へ。
この手紙が武蘭へ届く頃には私はきっと死んでいるのでしょう、なんてお決まりかな。
ごめんね、私の余命が短いのはわかっていた事なの。
私のように産まれた人間は、どんなに『アイ・Bスーツ』で身を守っても身体に負担がかかって20歳くらいまでしか生きられないの。
だけど他の人と多少寿命が違っても、せっかく生まれることが出来たんだからって、めいっぱい人生を謳歌したかった。
そんな私の人生に武蘭を巻き込んでしまってごめんなさい。
今更だけど、どうか武蘭は武蘭の人生を歩んでください。
歩瑠夏はパパとママに愛してもらって、武蘭にも大事にしてもらって幸せでした。ありがとう。 歩瑠夏』
震える文字で書かれているのは、あの小さな手でペンを握っていたからだろうか。
「なんで…なんで待っていてくれなかったんだよ……」
俺はその場に崩れ、床に臥せって泣いた。
泣きながら思い出すのは、最後に抱きしめる前の少し嬉しそうな本当の歩瑠夏の表情だった。
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