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怪物
「ただいまー」
静かで真っ暗な廊下に踏みいる。向かって右、一番近いリビングを見たが気配一つなかった。
組み込まれた行動として、スマートフォンを立ち上げる。シーナのチャンネルを開いたが、生配信はなかった。
一番奥の部屋へ向かう。ノックをしたが返事はなかった。
そっと隙間を作り、覗き込む。数秒かけて確認し、ようやく部屋に踏み込んだ。
電光にも負けないほど、眩しく光るパソコンが二台。部屋に威圧感を与えるほどの、大きな音響機材が二対。人の動作を読み取り、二次元キャラクターに反映させる機械が一つ。
それから、立派な社長椅子から顔を出す、ヘッドフォンをしたが頭が一つ。想像通り、マウスの音を響かせ集中している。
「ただいま、シイナ」
真横まで並ぶと、彼女はようやく僕に気付いた。小さな瞳が、声つきで驚きを表現する。ヘッドフォンを外し立ち上がった彼女は、変わらない声で僕を迎えた。
小さな目に平たい鼻、薄目の唇――可愛らしいパーツが総動員され、笑みが作られる。
「おかえり鮫島さん! ご飯できてるよ、温めるね!」
シイナ――元KIRIKOは、軽やかに僕の横をすり抜けた。
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