静かに血は流れる

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 倒れたのは男一人だった。身を横たえてから動きがない。  肩で息をする羽島は、ただ立ち尽くしていた。視線を男に吸いとられたままで。  空間に、淡い血のにおいが漂いはじめる。 「……彩歌ちゃん、大丈夫?」  羽島が、笑顔を貼り付けて振り向いた。だが、解放されない拳が動揺を物語っている。  桜庭はと言うと、虚ろに相槌を打った。羽島とは対照的な、何もない顔になっていた。  男は死んだ。きっと、二人とも分かっている。分かっているから動けないのだ。  状況に竦み上がる二人のため、敢えて台詞を読む。 「正当防衛だよ、これは」  だから大丈夫、罪にはならないよ――呟くと同時に、後ろから声がした。現れたのは警察だった。    もう一人の住人の、通報により駆けつけたらしい。やって来た警察は桜庭を保護し、僕らを警察署へ招いた。  各々事情聴取を受けたが、僕以外は話せない状態にあると言っていた。だから、僕がありのままを告白した。
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