二人の間に何がある?

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 斜光に邪魔され、表情までは見えなかった。しかし、“アルバイト”と“陰り”と“金銭の受け渡し”が、何の関係も持たないはずがない。  推理しながら、下駄箱の上履きを引っ張り出した。 「赤木、おっはよー! 玄関で会うの久々じゃない!?」 「おはよう羽島、羽島が早いんじゃない?」  被さった仮面を見て、こいつにも“隠す”との選択があったのだなと改める。いや、成功しているとは言い難いが。 「ねぇ、桜庭さんにお金とられてるの?」 「えっ」  仮面が崩れる。くっきりした焦りが見え、三つが僕の中で繋がった。 「ち、違う!」 「そうか、昨日見たような気がしたんけど違うんだね。良かった」  確信しつつも、敢えて不利をした。限界がそうさせたのか、引き下がったから決意したのか、知らない声音が聞こえた。 「……お金、渡してるのは本当。でも、とられてるんじゃない……彩歌ちゃんは……」  名前に行くにつれて、声量が萎んでいく。最終的には、僕の耳元に唇が近づいた。 「……虐待、受けてるんだって……引きこもってるお父さんに……」  声に似合う顔が地面を見ている。告白に含まれる悪い気配が、僕の中を駆け始めた。  隠しごとはそれだけだったのか、早々と唇が離れていく。羽島は遅れて上履きを出し、小声を継続したまま続けた。 「お金は俺がそうしたくて貸してるだけ……そんな風にしか助けられないから。でも俺、本当は一発殴って酷いことすんなって言ってやりたいんだ……でも、彩歌ちゃんが家に来られるのだけは嫌だって言うから……」  眉間に増えていく皺が、感情の強さを物語る。桜庭への愛情に変化はないようだ。けれど。 「彼女のその話、本当かな……」  ポツリと、空気混じりの声を吐く。届かなかったらしく「なんて?」と帰ってきた。 「ううん、なんでもない。大変だね」  言ったところで、彼は聞き入れないだろう。  でもね、純粋すぎると、悪魔を喜ばせることになってしまうよ、羽島。
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