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静かに血は流れる
秘密を共有したことになっているのか、羽島の陰りは減少した。少しずつ以前の姿に戻りつつある。
相変わらず、放課後はすぐ消えるけど。
ただ、アルバイトの為だけでなく、それがデートの為であるとも分かった。僕の察した気配とは裏腹に、順風満帆にやっているようだ。
マイペースに帰り支度をし、教室を後にする。廊下を歩いていると、遠くから駆けてくる羽島を見つけた。あるはずのない存在を注視してしまう。
焦りを全身から放つ羽島は、他の友人に引き留められては苦笑していた。
「あっ、赤木」
「どうしたの?」
「……彩歌ちゃんが朝から来てないらしくて……」
羽島は一切の笑みを作らなかった。他との差で、僕にだけ事情を晒したのが分かった。道標を欲しているとも同時に悟る。
「何かまずいの?」
「彩歌ちゃんが来ないことなんてないんだ。高熱でも来るような子だから……連絡もないし、家で何かがあったとしか……」
「じゃあ、家行ってみる?」
桜庭が訪問を拒んでいる件を、無視しているのは重々承知だ。しかし、僕の中の感覚が、彼を家に導けと指示している。
提案を飲み込めず銅像と化す羽島に、思考力は見当たらなかった。
「……僕も行くよ。何かがあってからじゃ遅いから。どうする羽島」
「行く!」
目的が定まれば行動は早い。元々一直線な奴だ。すぐさま踵を返し、迷っていたとは思えない早さで歩き始めた。
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