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悪魔のいる国
「昨日の事件さ、あれ絶対悪魔の仕業でしょ!」
騒がしい教室の中、誰かが言った。しかし、声が注目を集めることはない。
「真面目だったとか言ってたしねー」
いつも通り、他愛ないトークの一貫として、喧騒の中に溶けた。それどころか同じ単語が、教室の何ヵ所もを賑わせている。
ひっそり話に聞き耳を立てている僕と、隣席の羽島もその内の一組だ。テレビを占領した事件について、羽島が煌めく瞳で語る。
「真面目で頭もよかった奴が三人も殺してたんだろ? そりゃ悪魔決定だわ。犯人も憑かれて可哀想だよなー」
事件内容はシンプルだ。真面目な学生が無関係な人間を殺していた――そんなありふれた事件である。
かなり遠くで起きたことゆえ、話題には緊張どころか笑声がくっついていた。
「弱味にでも漬け込まれてたのかな。羽島も憑かれないように気を付けろよ」
この国には“悪魔”がいる。人間の姿に化けているらしく、姿では見分けがつかない。なのに皆が存在を信じており、犯罪イコール悪魔だと、方程式が出来るほど有名な話だった。
学校でも、悪魔の囁きには注意しろと教えられるくらいだ。
「俺は大丈夫だろ、別に弱味とかもないし。て言うか、赤木お前もだからな! 常にやる気なさそうだし面倒臭がりだし、簡単に乗っ取られそうなんだよな。心配だわ」
「僕も大丈夫だよ。悪魔がどこに潜んでるか分かんないことも、どう近づいてくるか分かんないこともしっかり理解してるつもりだから」
ブーメランを受け、冷静な演技で対応する。
確かに、裏表のない羽島と違い、僕には隠し事があった。けれど、それは弱味ではない。そう確信している。
そんなことより、僕の関心は別にあった。
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