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1人めの少女
――あ、またこの夢。
真帆は時々同じ夢を見る。姿は見えないものの、声だけが聞こえる。
『真帆……真帆……』
低く温かな男性の声。
――お父さんとは違うし……誰? 知ってるような……知らないような……。
「ピピピッ、ピピピッ」
目覚ましのアラームの音がなり、夢が途切れ、眠気を感じるまぶたをこすりながら、体を起こす。まだ朝の6時半だ。外はほのかに明るい。ふと、机に視線を移すと昨日の夜、久しぶりに引っ張り出した絵本がある。
『昔々……あるところに……』で始まるおとぎ話が大好きだった。
あくびをしつつ寝ぼけながら制服に着替え、背中まである黒髪を1つに束ねると、冷えた空気に身震いをしながら、いつもの日課をこなす準備をする。
真帆の家は神社をしていて、父親は神主。母は巫女。朝は父親の手伝いで掃除をすることになっている。
真帆はこの家の長女で一人っ子。跡取り娘である。真帆の住んでいる地域には他に神社はなく、祀られているのはお稲荷様で、昔この地域の農作物が育たなくなり助けてもらった過去がある。
神社は森林に囲まれ、それなりに歴史があり、初詣やお祭りの時期は忙しい。
外へ出るとすでに両親は掃除をしていた。
「おはようございます」
「おはよう」
2人はそろって挨拶を返して来る。
「真帆、そっちの掃き掃除が終わってないから、お願いね」
母は穏やかな笑顔で森林のある方を指しながら頼んで来る。
「はい」
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