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羽馬千香子編 8話 いろんな色があるね
夏休み中に、どうにか誠司くんと親睦を深めまくろうと思っていたのに、テニス部の後半が練習試合三昧らしく。さらには、「休みに、お前ばっかりと遊ぶわけにはいかねーんだよ」と、男の友情を最優先にされる始末。結果、ふたりっきりで会えたのはあの一回ぽっきりだった。
いや、まだ夏休みは終わっていない、諦めてなるものか! ……今日で終わるけども!
「くうーっ!」
思わず力んで立ち上がってしまったが、目の前でギョッと驚いている部活の先輩に気づいて、大人しく元通りに座り込んだ。
残念ながら、自分の所属する美術部も、今追い上げ期で大変なのである。弁当持参で午前も午後も部活三昧である。
美術室の床には大きな白布が敷かれていて、先輩達がせっせと色を塗っているところで、私はその布が皺にならないようにピンと引っ張って押さえるという重要な任務中である。
「羽馬さん、足でも痺れたの?」
後方の声に振り返れば、円堂先輩が作業の手を止め、顔だけこっちに向けていた。
「あ、いえいえ! 別件です! 大丈夫です!」
「押さえてるだけだと、つまらないよね。あとで、ここの部分描くの、手伝ってもらおうかな」
「とんでもない! めっそうもない! 私なんかが描き込んで、体育祭と美術部の一生の汚点になったらだめですから!」
さっきまで静かに作業していた部員達が、各所で肩を震わせる。
ほら、みんな想像して笑っているではないか。
「そう言われると、余計に描いてほしくなるな。えーと、どこか目立つ場所あるかな」
「ぎゃー!」
立ち上がって布に描かれた下絵を俯瞰する円堂先輩に、私はすぐさま飛びついて目元を覆わせていただいた。
さっきまで集中していて静まり返っていた美術室なのに、みんなが一斉に遠慮なく笑いだして、緊張感をぶち壊してしまう結果となった。
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