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プロローグ
ある日の放課後、伊織稜一郎と俺、瀬名一司は箱の中に閉じ込められた。
「あれ? 開かない」
伊織が呟く。
伊織が押そうとしているのは、俺達が入っている手品用ボックスのサイドドアだ。
「え? マジ? 内鍵は?」
「開けたよ。多分、外鍵を開け忘れたんだ」
「一旦上から出るか……。あれ?」
俺は蓋を押し上げようとしたが、びくともしなかった。
「瀬名、どうした?」
「開かない……」
「え」
俺と伊織は狭い箱の中で顔を見合わせた。
今は高校の文化祭に向けての準備期間だ。うちのクラスは手品の出し物に決まった。
現在、出し物系を担う他クラスの生徒が体育館で練習しているけど、舞台の幕を下ろした舞台上で自主練しているのは、俺と伊織の二人のみ。外から箱を開けてくれるサポートメンバーはいない。
――詰んだ。
伊織と共に横になった姿勢のまま、俺の頭の中ではポクポクという木魚とチーンというおりんの幻の音が響いていた。
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