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発表内容
文化祭に向けて取り組み始めた。
クラスで初めに決めた目標は「本番でのアドリブ禁止」だ。時間が限られているから、各自が見せ場でサービスすると時間超過してしまう。
ただし、おふざけのアレンジパフォーマンスも時間内ならオッケー。司会役の朱里が「出来る限り完成度を高めよう!」と言って、思い付いた案は本番前までに出しまくることになった。
吹奏楽部と合唱部はロミオとジュリエットの出会いの舞踏会シーンと、ロミオとジュリエットが棺に入れられているマジックショーの合間が発表の見せ場となった。ピアノ担当だけ出ずっぱりで、他のシーンは抑えめのBGMを演奏してもらう。本気出されると、劇中の台詞がかき消されてしまうから。
ショーのメインの一つである男だけのジャグリングも、同じく舞踏会シーンとマジックショーの合間に出る。女子ダンス部は舞踏会シーンでは女装、男装パートに別れて踊り、マジックショーの合間は全身真っ黒、タイトスカートで、バックダンサーとして群舞で踊る。
全体ストーリーの演劇部分は大幅カットとなった。俺と伊織が覚えられる台詞数まで減らしてくれたともいう。
ストーリーはかなり魔改造アレンジが入った。
舞踏会で出会い、一目惚れしたジュリエットに即、告白するロミオ。二人は両想いに。敵同士の家であることに悩むジュリエット。思い余って仮死状態になる薬を飲み、先に棺の中で眠る。これが手品で使われるボックスだ。連絡の行き違いでジュリエットが本当に死んだと思い込むロミオ。
ここからは、マジックショーのオリジナル展開。
毒薬を飲んだロミオはジュリエットの棺に一緒に入り、蓋を閉める。後から追いついた第三者――ジュリエットに横恋慕する男――が登場し、棺からロミオを引き出そうとするが、蓋が開かない。怒って棺ごと剣で刺す男。更にあとから到着した第四の者――ジュリエットに薬を渡した修道僧――が男を止める。剣で串刺しになった棺を前に、悲しむ修道僧。そこに、魔法使いが現れる。魔法使いが棺から剣を抜き、蓋を開けると、生き返ったロミオとジュリエットが棺から起き上がる。舞台幕の袖から出演者全員が出てきて、客席に向かってみんなで頭を下げて終幕。
お題は「マジックショー『ロミオとジュリエット in マジックボックス』」。
「無茶苦茶だ! 台詞少なくて助かるけど!」
俺は出来上がった脚本を見て、声を上げた。
「ショーだから何でもあり!」
朱里はあっけらかんと笑う。
「今気づいたんだけど。俺と伊織以外、台詞ある役は演劇部のメンバーじゃん」
「うん。そうだよ?」
剣を刺す男とか修道僧とか、演劇部の女子が男装してやるんだけど……。
「だったらロミオとジュリエットも演劇部のメンバーがやればいいじゃん」
「文化祭は全員参加でしょ? 演劇部員がクラス発表会を横取りするわけにはいかないんだって。だから脇役で参加するんだよ。瀬名君がくじ引きでロミオ役に決まったのはたまたまだけど、ジュリエット役を引き受けてくれたのが伊織君だったから、相手が瀬名君で良かったってクラスの女子からは好評です」
「なんで」
「理想的な身長差だから」
そんなとこだろうとは思ったけど、一瞬だけ期待した自分がバカみたいだ。
「ところで、朱里さんはさ……」
「朱里でいいよ」
「ああ、うん。朱里はさ、司会としてこれ、どう収拾つけんの。シェイクスピアには出てこない、棺を刺す男っていうホラーな展開になって、いきなりマジックショーのBGMに変わるんだろ。バックダンサーが躍りながら現れて、ジャグリングのメンバーがジャグリングしながら現れるんだろ。シュール過ぎない?」
「ホラーゲームの解説みたいにやろうかと」
「不謹慎過ぎない? 子どもが見たら泣かない? 展開が怖すぎるよ。年配者が見たら、怒らない?」
「だから手品のショーのBGMと司会が入るんじゃん」
「……ちなみにどういう解説を」
「さあ! 棺の中のロミオとジュリエットは剣でひとつきされ、串刺しに! 絶体絶命のピンチ!」
「そもそも薬飲んで死んでるから」
「大丈夫。魔法使い役の鈴村さんが棺から剣を引き抜くと、瀬名君と伊織君が立ち上がるでしょ。そこで、『まあ、なんということでしょう。魔法使いの魔法と、愛の力で二人は蘇ったのです!』と解説を入れる」
「なんか別の話と混ざってない?」
「細かいことは気にしなーい! 楽しんだもんがち!」
朱里にサムズアップでグッとポーズを決められ、俺は脱力した。
「これから練習が始まるね。時間内に収まるように台詞を削るんだって。主役二人になるべく合わせるから、言いにくい台詞があったら教えてねって脚本担当の近藤さんが言ってたよ」
「じゃ、ここ」
俺は早速脚本の一部を指さした。
「『愛してます』?」
朱里は俺の脳天に手刀を食らわせるポーズをとった。
「言いたくない台詞じゃなくて、噛みやすい台詞だってば! ボケんでいい」
「はは」
これ、俺から伊織に言うの? あいつの方は「わたしも」の一言で済むよう舞台回しの台詞が工夫されている。贔屓だろー。
うちの姉に見られたらずっといじられるネタにされそう。
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