仕掛け箱

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仕掛け箱

 ロミオとジュリエットが入る棺は、自作することになった。舞台用の剣で刺し込むことが出来るよう、木と紙で箱を制作する。木枠で箱型を作り、壁となる部分に紙を貼る。強度を出すために段ボール紙と厚紙を交互に張り、外側から真っ黒な紙を貼れば、(ひつぎ)の完成。壊しても大丈夫なよう、習作を何個か作った。  朱里が親戚から借りた手品用の装置は、巨大な一枚鏡と机と階段だった。あと、ステンレス製っぽい剣を数本。  仕掛けはわりとシンプルだ。  まず、剣で刺せる強度の弱い箱を用意する。上の蓋は客席側に下ろしてロックが掛かる仕様にする。もう一つの蓋は舞台の奥側に開く。サイドドアだ。サイドドアのロックは内側の壁にある。箱の中に入っている人(A)はサイドドアから一度外に出る。外にいる人(B)の剣のパフォーマンスが終わったら、(A)は箱の中に戻ってサイドドアを閉める。(B)に蓋を開けてもらったら、(A)は起き上がって箱の中から出る。  巨大な鏡は、箱を置く机の下に、斜め下に向けて設置するものだった。傾斜角度を調整すると、舞台の床が続いているよう見える。机下の床板がずっと奥に続いて不自然に見えるとまずいから、机には上半分を隠す黒い布カバーをかける。  階段は舞台奥側に設置する。箱の中のサイドドアから出た時に下りるためのスペースだ。鏡で隠されているから、正面からは見えない。  朱里曰く、古い手法の手品の装置を貸してくれたとのこと。近年はもっと技を進化させているから、今は使っていないんだって。  間近で手品用の装置を見て、俺は少し感動してしまった。これ、プロが使うところ、見てみたかったなぁ……。  クラスの皆と放課後に練習する時は、俺と伊織は一人ずつ棺の箱に入り、一人ずつ箱のサイドドアから出る練習をしていた。二人一緒に密着して入る練習は本番前で十分。朱里の指導を受けた剣の男役の女子、井上さんはだんだんサイコパスっぽい刺し方になってきて、ちょっと怖かった。  手品の装置が届いてから、俺は伊織に、二人一緒に箱に入り、二人でサイドドアから出る自主練習をしないかと提案した。  伊織は「本番前に練習しないとって、俺も気になっていたんだ」と言ってくれた。  「演劇なんて」と、最初は照れ臭かったけど、クラスメイトの前で何回も「愛してます」って野郎相手に言っていると馴染んでくるものだなーと思って、俺は油断していた。  だから、「これの自主練は、放課後に、二人だけでいいよな?」なんて言ってしまったんだ。
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