無事救出

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無事救出

 いやぁ、全く、アレだ……。救助される時に第三者にジロジロ見られるという貴重な体験を俺は十七歳で味わいました。すっげぇ恥ずかしい。もう俺達に怖いものはない。おかげさまで本番は開き直って「ロミオとジュリエット」を()れそうだ。 「すみません! 助けて下さい!」  耳元で伊織の大声が聞こえて、俺は箱の中で目が覚めた。 「蓋が開かなくなったんです! 開けて下さい!」  箱の外で人の声が聞こえた。しかも複数人。 「上の蓋を開ければいいのかい?」  男の人の声がした。先生? 守衛さん? 「ロックを開けて下さい!」 「これかな?」  少しして箱の上部の隙間から明かりが入った。伊織と俺が蓋を押し上げて、一人ずつ箱の外に出る。舞台の上には、結構人がいた。生徒も先生も守衛さんもいる。 「え!? 二人でこの中に入ってたの?」 「こんなとこで何してたの!?」  矢継ぎ早に尋ねられて、俺と伊織は顔を見合わせた。凝り固まった身体とジンジンする腕のしびれをほぐしつつ、何とか口を開く。 「文化祭の出し物練習をやっていたら、出られなくなってしまって……」  先生と守衛さんを呼んでくれたのは同学年の他クラスの女子だった。出し物の練習をし終えて帰ろうとしたところ、そのうちの一人が舞台の幕が下りたままになっていたのに気づいて、元に戻そうと舞台の上まであがってくれたそうだ。 「あれ? 何か出しっぱなしになってる……。片付けしてないの、どこのクラス?」  ここで、箱の中から伊織が声を出した。 「あの~」 「ひゃっ。誰!?」 「2年2組の伊織です。ここ、開けて下さ……」 「いやー! 何? 幽霊?」 「違いま……」 「やだー!」 「待っ……」  第一発見者の女子はその場から逃げた。  そして体育館の扉前で待っていた友達に声をかけ、みんなで職員室に行き、報告したそうだ。職員室に残っていた先生のうち、一人が守衛さんを呼びに行った。万一、学校に不審者が入り込んだ場合に備えて。  俺と伊織が開けてもらった箱の中から起き上がった時、2年5組の女子五名と、3組のクラス担任と学年主任と守衛さんという三名の大人がいた。計八名。  ジロジロ見られ、心配され、不思議がられ、事情を聞いて笑われ、なぜか「浜田先生のクラスかぁ。なるほどね」と納得され、改めて「危機管理がなっとらんぞ」と説教をされ……。  幽霊疑惑と不審者疑惑は解けたけど、俺らの釈明を聞いている間、女子連中は口許に手をあててプルプル震えていた。多分、笑いを堪えていたんだと思う。「文化祭前に手品の種明かしはしないで下さい! お願いします!」と俺と伊織はその場にいる面々に頭を下げた。「仕掛けが事前にバレちゃっても楽しいショーにするから、大丈夫だよ」と、発起人の朱里は言っていたけど、マジで箝口令(かんこうれい)を守っているクラスメイトに申し訳ない。  「宣伝はしてもいいんだよね?」と5組の女子にこそっと聞かれたから、「それは大丈夫」と答えておいた。  どういう宣伝をしたいのかは聞けなかったんだけど……。  かくして、文化祭前に、「2年2組の出し物は男二人が閉じ込められるやつ」と学年を越えて噂を流され、刷られた文化祭パンフレットに「マジックショー『ロミオとジュリエット in マジックボックス』」と載せられたことから、「ロミオ(男)とジュリエット(男)」が早めに校内に周知されることになった。  クラスメイトには怒られたり心配されたりして、小言を食らう度に俺と伊織は謝ったんだけど、朱里は「出演する前から笑いをとるなんてなかなかやるね!」と笑い飛ばしてくれた。  「宣伝も好評だし、開き直って文化祭を盛り上げていこー!」と、クラスの面々で円陣を組まされ、俺達は文化祭当日を迎えた。
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