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文化祭一日目
文化祭は、初っ端から賑わっていた。
家庭菜園部が高校の門の前で有機野菜の販売を行ったため、外から人が集まったそうだ。今は季節がら秋野菜。春野菜や夏野菜は、購買部の横で時々販売されている。
「結構、人が入ってきてた」
校内の見回りに出たクラスメイトの田中が、教室にかえってきた。
「ほんと? 俺も見に行く」
「瀬名君、待った! 眉、整えさせて!」
出演者のメンバーは教室で舞台衣装に着替えた後、「マジックショー『ロミオとジュリエット in マジックボックス』、場所:体育館、時間:13:00」と書かれたボードを掲げて、校内を練り歩く予定だ。
着替えはホワイトボードと黒カーテンを組み合わせた簡易パーテーションのコーナーで済ませた。
着替えだけでいいかと思いきや、俺も髪をセットされた。演劇部の女子に。男子連中から熱視線が刺さったけど、ま、出演者の役得ということで。でも、顔をいじられると聞いて、俺はちょっと引いた。
俺より先に着替えさせられた伊織は、眉どころか化粧をベタベタ塗りたくられて、目を閉じている。あれは俺も羨ましいとは思わない。南無三。
「出来たー! ジュリエット! 麗しい!」
「ロミオも完成! こっちも見て見て!」
盛り上がる演劇部女子。沈黙するクラスメイト男子。
椅子から立ち上がって向かい合わせで見た伊織は、エンパイアラインという胸の下からストーンと真っ直ぐ落ちるタイプのドレスを着させられていた。柄が派手なのはイタリア衣装だからだそうだ。髪は整髪剤で固められたあと、頭の後ろにピンで付け髪のお団子を付けられている。金糸とビーズでキラキラのヘアバンドをしているので、遠くから見ると女子に見える……かもしれない。
でかいけど。
「お疲れ」
「まだ始まってもいない」
ツヤツヤのピンク色に塗りたくられた唇から出る、地を這うような声。
「瀬名、一緒に爆死しよう」
「わかった。死なばもろとも」
伊織はマニキュアでピンクに塗られた爪先を眺めつつ、はぁっと息を吐いた。演劇部、容赦ねぇ。
「じゃ、ロミオとジュリエット、宣伝よろしく~。これ、二人のボード。次、ジャグリングメンバーね。女子の着替えは最後。時間になったら、みんな体育館に集合ね」
「了解」
出演しない男子連中が俺らと一緒にゾロゾロと教室から出ていく。渡されたボードは前と背中、共に見れるよう肩から掛けられる紐が付けられていた。舞台衣裳の上からこれを掛けて練り歩く……。公開処刑のスタイルっぽいなと思ったんだが、教室の扉を出た瞬間に「きゃーっ」と他クラス女子の歓声を浴びて、沈んだ気持ちは吹っ飛んだ。宣伝広告は注目を浴びてなんぼだよな。
「伊織、大丈夫?」
「愚問。それより瀬名、俺の顔を正面から見ても、台詞忘れるなよ」
「そうは言っても……」
改めて二人で顔を見合わせる。ブフッと変な声が出た。
「ごめん。伊織のジュリエットを笑ったんじゃない。この状況がおかしくて」
「言っておくけど、瀬名のロミオも大概だからな。ボードを組み合わせると俺達、大道芸枠だ。せっかくだから、校内全部練り歩いて制覇するぞ」
「オッケー。中の展示で見たいやつあったら寄っていこうぜ。茶道部とか映画部の展示とかは時間かかるだろうからパスするけど」
「わかった」
俺と伊織は拳と拳を合わせたあと、顔を上げて廊下を歩き出した。
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