公演後

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公演後

 クラスメイトの面々は背景の絵の幕と手品の装置を準備室の所定の位置にしまい、急いで撤収した。階下の吹奏楽部のクラスメイトは折り畳み椅子を収納した。次のクラスの公演時間が迫っているため、衣装の着替えは教室に帰ってからだ。  体育館の壁横を出演者みんなでゾロゾロ歩いていたら、「ロミオだ」とか「ジュリエットだ」と言う子どもの声が聞こえたので、客席の方角に手を振ってサービスしておいた。  公演は明日もある。うちの高校の文化祭は二日間あるから。  花道かというくらい注目を浴びながら、廊下を歩いた。話しかけられているクラスメイトもいたけど、俺と伊織は教室に直行。主役の衣装は替えがないし、明日のために早く脱ぎたかったから。 「はぁ。落ち着く」  制服に着替えて俺はホッとした。伊織は着替えスペースから出てくると、何かのボトルを手に持って教室の扉へ向かう。 「どこ行くんだ?」 「化粧落とし」 「メイク落としのシート、ここにあるけど」  俺は演劇部の女子が差し入れしてくれた備品を指差した。 「俺のはウォータープルーフ用の化粧だから、水では落ちない」 「ああ、シンクロナイズドスイミングで使うやつ……」  今はアーティスティックスイミングな。メイク落としのシートくらいじゃ落ちない。 「男子トイレ行って、落としてくる。瀬名、付き合うか?」 「行ってらっしゃい」  呼び止めて悪かった。  伊織が教室の外に出たら、ショーを見た他クラスの面々に呼び止められていたけど、「明日も同じ時間に公演あるよ」といなしながらノシノシ歩いて行った。強い。  伊織はその後、ピンクの爪だけそのままで過ごしていた。除光液を使うと爪が痛むからだそうだ。「バイク用グローブと軍手あるけど、貸そうか?」と提案されたらしいけど、「かえって目立つからいい」と断っていた。キラキラネイルは「爪の形が綺麗だから映えるね」なんて言われ、女子に好評だったようだけど。
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