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「あ、あの、もしかして、駆け落ちってことはないですか? 最近は色々と受け入れられやすくなってきているけど、やっぱり……」
不安を払拭させるように、佐々木が別方向の推察を言う。
「いや、それはないと思う」
それを店長がすっぱり否定する。
「実は、いつだったか柚木に正社員昇級の話をしたことがあるんだ。そしたら、柚木こう言ったんだ。『大切な人と一緒に生きるには、ちゃんと安定した生活を得る必要がありますよね』って。で、正社員の話をしっかり考えるって、前向きな答えくれたんだ」
「大切な人って、河野くんのことよね」
「ですよね。それなら柚木さんが実家に帰ろうとしていた理由も想像できますよね。お墓参りをして、ご先祖さまに将来について報告するっていう」
「でも、それだったら普通は河野くんも誘うんじゃないの?」
「う……ですよね……。けど、柚木さん『帰らないと』って言ってたみたいだから、自分の意思で帰ったのは確かなんですよ」
「えっ⁉ 柚木、帰るって言っていたのか?」
「はい。いなくなる前日、何度も言っているのを聞いたって、河野君が……」
柚木拓馬が残した『帰る』という発言を聞き、店長は黙し考え込む。
「……あの事件、犯人は全面自供して、かなり早い段階で刑も確定していたんだ。犯人、結構真面目な人間で拘置所でもおとなしかったらしい。けど、急に帰らせてくれって暴れるようになったって言うんだ。それが手に負えないくらいの暴れ具合で、人が変わったみたいだったって……」
「……その犯人って、亡くなったんですよね……」
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